「ああ、コーヒーのおいしいこと」

今、クラーリィは自分の部屋でリュートと共に珈琲を飲んでいる。
今日の仕事は午前中に片付け、久し振りに時間の空いたリュートと談笑していた。
こんな明るい内にリュートと一緒に居られるなんて、本当に久し振りだ。
仕事で時間を共にすることはあっても、プライベートと仕事では全然違う。
穏やかに流れる時間を、クラーリィは至福に満喫した。
今、ニ人が珈琲と一緒に口にしているのは、料理好きなコルネットが作ってくれたラズベリータルト。
クリームは甘過ぎず、ベリーの酸味で後味が爽やかだった。
時々、疲れた自分を気遣い差し入れてくれるのだ。
我が妹ながら、本当に良くできた妹だと思う。
兄馬鹿だと?
血を分けた肉親を、可愛がる事の何処が悪い?
敬愛する我等が王子も、妹君を可愛がっている。
オレはそれに習っているだけだ。

そんな兄馬鹿ニ人が揃えば、自然と妹の話題にも花が咲いた。

「今日のデザートは、随分と可愛らしいね。デコレーションも凝ってて凄く美味しい」
「ええ、実はコルネットの手作りなんですよ!」

クラーリィは、ここぞとばかりに妹を売り込む。
やはり、恋人の肉親に対する感情は良いものであって欲しい。

「コルネットさんの?ふーん…」

だが、鼻息荒いクラーリィとは対照的に、何故かリュートはつまらなそうに生返事ばかりだ。

「いやぁー!コルネットは私の口から言うのもなんですが、料理上手なだけでなく御淑やかで、尚且つ法力が強い!!
行く行くは、王子と私の右腕として大神官補佐に…」
「クラーリィは、本当にコルネットさんが可愛いんだね」
「そりゃまあ、唯一の肉親ですし…」
「フフッ…なんだか妬けちゃうなぁ」
「へっ?」

リュートが席を立ち、クラーリィの膝にのし上がってきた。

「り…リュート様!?」
「じゃあボクと、どっちの方が可愛い?」

艶めかしく笑み、両の手でクラーリィの頬を包み唇を眺めている。
こっ…これはもしかして、リュート様のOKサイン?
ならば、据え膳食わぬは男の恥(相手も男だけど)!!
熱く視線を絡め合い、リュートの頬に手を添える。

「リュート様…」
「クラーリィ…」

顔が、近づいていく。
唇に…。

「クラーリィは髭生やさないの?」

………。

「…は?」
「いや、髭だよ。クラーリィはいつもツルツルだから…もしかして生えないの?」
「まあ、体毛は薄い方ですが…てか、なんですか突然…」
「いやー、似合うかなと思って…て言うかボクの好み?ああ好みと言えば、服も紺色じゃなくて、どうせなら黒い服にしなよ。
帽子とか被って、眼鏡も止めて眼帯なんてどお?ワイルドで素敵でしょ!イメチェン、イメチェン!」

リュート様の今言った「好み」に該当する人物は、オレの知る限りこの世に一人しかいない…。

どうやらリュートは、15年にも及ぶ束縛された恐怖のトラウマを恐るべし方向に昇華したらしい。

「リュート様!?お気を確かに!!」

肩を鷲掴み、ガクガクと揺さぶる。

「え?ボク、何か変な事言った?」

自覚が無いらしい。思わず重い溜め息がついてでた。

「…それよりクラーリィ、今日はやけに機嫌が良いね」

それはそうだ。
久しぶりにリュートと穏やかな時間を共有する事が出来などクラーリィにとって、これ以上の至福はない。

「やっぱりタルトが…」
「え?」
「ううん、何でもない!ボクちょっと用事が出来たから、もう失礼するね。タルトご馳走様!」

そんな…せっかく気合いを入れて、食器も珈琲豆も最高級の物を揃えたのに…。
何か、気に障る事でも言ってしまったんだろうか?
リュートの為に生けた花が、虚しくテーブルを彩っている。
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