「我が救い主は愛のために死にたまわんと」

ボクがもっと、早く生命を諦めていれば…。
ボクの、最後の魔法。


「メキド」


…あと、一言だったのに。

ボクが、命に区切りをつける事を躊躇したから。母さんが。みんなが…。


フルートが泣いている。


喉笛を突かれた。ボクの口と喉から、ヒューヒューと空気の漏れる音がする。

足を貫かれた。人を助けるどころか、逃げる事さえも出来ない。

目を潰された。暗闇。もう、何も見えなくなった…。

フルートの鳴き声が、更に大きくなった。

お願い、泣かないで…。

「聖杯≠フ儀を執り行う…」

地面にひれ伏した体を、槍で首を支えられ刃が喉元に食い込み、新たな血筋を作る。
折れた両腕を左右から引かれ、上体が持ち上げられた。
ボクは数秒後に迎える運命を悟り、何も映さぬ眼でフルートを振り返る。

次の瞬間、胸を貫かれボクの意識は途切れた。


ボクの魂は、ベースの眼孔に納められた。
ボクの心と体は、離れてしまった。魂を失った肉体が、力無く崩れ落ちた。
襤褸切れの様な体が、血に濡れて地面に横たわっている。
もう何も残ってはいない、抜け殻。
戦いの最中に降り出した雨が血を洗い流し、破かれた服から覗く、背中の十字架の痣をクッキリと浮き彫りにした。

「魔人と“同じ血”を受け継いだ娘だ…生かしておいたら脅威となるやもしれん…殺せ…」

ああ、フルート!!フルートが殺される!!

そう強く想った時、ボクの「体」が跳躍した。
もう、法力も魂さえ失った体が。
雨に打たれ体温を無くし、冷たくなった体がそれでも。
その時、確かにボクの魂と肉体は繋がっていた。
乱暴に抱かれたフルートを、魔族から奪い返す。
ボクはフルートを取り戻せた事がただ嬉しくて、フルートに笑いかけた。
そう。
自分の置かれた、状況も何もかも忘れて。
この手でフルートを守れた事が只々、嬉しかったんだ。

もう、大丈夫だよ。
だから、もう泣かないで…。

フルートを転送の魔法陣に乗せて母さんの元に送った。

「フルート…君に…」


幸運と勇気を


フルートが消えるのを見送り、ホッと安堵の溜め息をついた。
それがボクの最後の呼吸。

身体が崩れ落ち、今度こそボクの意識は闇に堕ちた。




2010.7.15

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