ゴミ箱のひとりごと
むかしむかしの
そのまたむかし
あのこの
おとうさんと
おかあさんが
こどものころ
せんそうがあった
せんそうにまけて
あたまに
ゴミをつめこまれて
おとなになった
そして
そのゴミを
こどもたちのあたまに
つめこむほかに
なんにもおもいつかない
親になった
あのこは
にわのすみでまいにち
こっそりおいのりをした
ゴミでぱんぱんの
くるしいあたまを
へいにうちつけながら
おてんとうさまに
おいのりした
かわいそうな
おとうさんと
おかあさんを
たすけてください
つめこんでも
つめこんでも
ゴミをいくらつめこんでも
おとうさんと
おかあさんは
もっともっとと
まんぞくしません
わたしのあたまは
ゴミでぱんぱん
毒が染み出して
体がしびれています
そして
ゴミをつめこまないと
よこつらをはりたおされて
たおれるとけりあげられて
かべにうちつけられて
息もできずにうずくまっていると
かみのけをもって
また
なげとばされるのです
そして
はいつくばって
やっとのおもいで
どげざして
手をついて
わたしがわるかったです
ゆるしてください
と
目を伏せて
いうまで
終わりません
軍隊式幽霊がとりついて
あばれるのです
なぜ わたしは
あやまるのでしょう
なにがわるくて
どんなにくやしくても
どんなにかなしくても
にらんだりしては
いけません
目を伏せて
目をふせて
あたまを
地面に
こすりつけるのです
おそろしいのは
あのひとたちの
あたまのゴミのせいで
あのひとたちのせいではないので
あのひとたちは
なんにも
おぼえていないのです
そして
もっとこわいことに
じぶんたちは
こどものためになる
きょういく を
ねっしんにしている
すばらしい親だと
おもっていることです
わたしにはもう
これいじょう
あのひとたちの
いうことをきいてあげることが
できません
どうか
わたしを
じゆうにしてください
そとにでたり
ともだちをつくったり
すきなだけかけっこしたり
たのしいことを
おもうことや
かんがえること
かんじることを
わたしに
かえしてください
おいのりつづけて
6000日のある夕方
ついについに
へいがこわれた
あのこは
われたあたまから
ぎゅうぎゅう詰めの
ゴミをふるい落として
裸足で駆け出した
全速力で駆け出した
ひかりかがやく
おひさまにむかって
おとうさん
おかあさん
ごめんなさい
ごめんなさい
わたしは
あなたたちから
にげるのではないのです
せんそうがつくった
あたまのゴミから
にげだすのです
からだまで
くさってしまう前に
あのこは
ゆくえふめいになった
あのこは
どこかできっと今も走っている
すっかりすっかり
白くなった髪を
風にふかせて
にげろ にげろ にげろ
にげろ にげろ にげろ
にげろ 逃げろ 逃げろ
からっぽなあたまに
ひびきつづける
いつか星になり
ことばをわすれるまで
あのこは
ゆくえふめいのまま
いえ
あのこだけでは
ありません
こうして
一人消え
二人消え
せかいじゅうで
こどもがつぎつぎ
ゆくえふめいになり
とうとう
ひとりも
こどもは
いなくなってしまいました
人間
この星には
もう
人間は
いりません
せんそうと
せんそうということばが
ない世界など
ありえない
なんて
思っている
人間は
あのこの
おとうさんと
おかあさんは
もう
すっかり
前にも増して
なんにも
おぼえていません
あたまのゴミは
かなしみをこめて
歌を歌うたびに
すこしずつすこしずつ
歌にとけて
歌は風にとけて
風は空にとけて
すっかり
なくなってしまいました
ただ
あのこが
小さくてかわいかったころの
思い出だけ
まいにち
おもいだすのです
・・・・・・・・
・・・・ あ ・
なにか
おもいだしたようです
いえ
わたしは
しりませんよ
ただの
ゴミ箱ですから
そう
せ
ん
そ
う
なんて
ことば
いまでは
だ〜〜〜〜〜れも
しりません
しいていえば
せんそうむし
というむしがいて
物好きな昆虫マニアが
ときどき
みつけて
標本をつくっているくらいのものです
ケチャップをぶちゅっと
かければすぐに
なめくじみたいに
とけていなくなってしまいます
それからそれから
こどもたちも帰って来ました
足を前にのばして
手のひらから出る
ロケット噴射で
飛び回れるように
なってね
かえってきましたよ
ちょうちょみたいに
飛び回っていますよ