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ぐずついた天気が続く昨今。
世間から畏怖される孤高の老王は、いつものように書斎の豪奢な机の前で執務に勤しんでいた。
「…」
ふ、とペン先を休め、徐に窓の外に目をやれば豪雨。
滝のように窓を伝う雨粒を見た鷲巣は、呼び鈴を鳴らして大量のタオルを部下である通称白服に準備させた。
こんな酷い雨の日に限って、彼奴は現れる。
直感だった。
「ふん」
いつ現れるかも知れない相手の為に、タオルを用意した事に館の絨毯を濡らされたくない等と心の中で言い訳をするが、本当は。
本当は案じている。
彼奴は老王にとって生まれて初めて、心を動かされた相手だから。
さらさらと再びペンを走らせ、執務を再開する。
降り続く雨は、相変わらず強さを和らげる事は無い。
すっかり暗くなった部屋に灯りを点せば。
「鷲巣…」
来た。
不穏な気配に鷲巣が振り向けば、やはり彼奴はずぶ濡れで。
「近寄るな」
彼奴目掛けてタオルを投げると濡れた躯を拭きながら、上着を脱いでいく。
きめ細かな雪花石膏の肌が、露になる。
「馬鹿者、何故に服を脱ぐ!?」
「濡れてるの気持ち悪いから」
「自業自得じゃろうが」
鷲巣はまたタオルを投げた。
すると彼は全ての衣服を脱いで、腰にタオルを巻いて近づいて。
「掴まえた」
「露出狂の変態めが」
「アンタの前でだけだ」
「阿呆」
彼の冷えた躯が老王を包み込む。
老王の体温が、じわりじわり彼の躯を温めて。
「やっぱりアンタ温かい」
「アカギ、貴様いい加減風呂に行け」
吐き捨てるように呟けば。
「嗚呼。アンタもね」
軽々抱え上げられて、浴室に連行されるのだった。
***
雨の日のお話。
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