月光
新月の晩である。
 ギリシャの聖域で、シンプルな黒いロングワンピースを着た魔鈴は、簡素な石で造られた、真新しい墓標の前に立ち尽くしていた。墓標には『アイオリア』と彫られている。
魔鈴は手にしていた白い百合の花束をそっと墓標の前へ置き
「レオのアイオリア……」
 と呟いた。

何時の頃からだろう。魔鈴がアイオリアの好意に気が付いたのは。
(最初は花束だったかしら、それとも果物だったかしら)
魔鈴が朧気な記憶を辿る。魔鈴が聖域へ来てから間も無く、小屋の前には連日の様に花束や果物が置かれるようになった。
淡い色の微かな香りを放つ花束に顔をうずめ、またサワーチェリーやピーチなど季節のフレッシュな果物を齧りながら、プレゼントを送った主の小宇宙を辿ると、それはアイオリアであった。雑兵なのか聖闘士なのか正体は不明のまま、逆賊の弟という汚名を周囲から浴びかせられつつ、彼はいつでも毅然としていた。

―逆賊の弟と冷遇されるニッポンの女―

それは聖域の人々にとっては、かっこうのスキャンダルだろう。だからこそ、アイオリアに話し掛けられても魔鈴は沈黙を保っていた。
そんな金茶色をした髪をたてがみの如く風になびかせ、牙を隠した黄金の獅子に惹かれる感情を魔鈴は押し殺していた。気紛れに市場で買った古本で花言葉を紐解くと「一目惚れをしました」「初恋です」「貴女を慕っています」などとあり、深夜の静まり返った聖域で魔鈴は一人で赤面をした。いつも一輪だけ入っている白い花の名前が分からなかったが、後になり魔鈴は知る事となる。その花言葉は「名誉ある死を」だった。

 こんな事になるのならば。
「アンタと立ち話ぐらいはして置けば良かったね」
そう言って魔鈴は赤茶色の癖っ毛をかきあげつつ、己が付けている白銀の仮面を外すと、アイオリアの墓標に立て掛けた。そのどこか淋しげな後ろ姿を新月が覆い、魔鈴の細いシルエットを隠した。―Fin.―

※アイオリア×魔鈴アンソロジー「黄金の獅子と白銀の鷲」へ寄稿させて頂いた物を加筆修正しましたSSです。
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