「ミルククラウンの王子様」
「やっと見つけたわ……私の王子様」
 黄金に煌めく牛の角をまるで王冠の様に、そっと触れながら少女は呟いた。

 ある満月の晩である。
沙織は一人で聖域をぶらついていた。黄金十二宮での聖戦が終わり
「女神アテナとして……」
と宣言をしたものの、実はまだ彼女には微かだが迷いがあった。パープルのショートボブヘアを手櫛しで梳く。
「これで良かったのよね。お祖父様」
今まで日本で普通の女子高生として生きて来たのに、遥か遠いギリシャで女神、しかも戦いの女神アテナだなんて。どこか虚ろな瞳で沙織が夜空を見上げた時―
「こいつがアテナかよ」
「一人でブラブラしているなんて無防備だよな」
「襲って下さいって言っているようなもんだぜ」
「お前たち、襲え襲え」
突然に数人の男達に沙織は囲まれた。服はボロボロで野獣の様な目で沙織を見やり、ジリジリと距離を縮めていく。
「貴方達は誰なの?」
 沙織の問いに男達は鼻で笑った。
「お前が教皇様を倒してくれたお蔭で俺たちはこのザマさ」
「責任を取って貰おうじゃねえか」
「小宇宙の欠片も感じられねえぜ。こいつ本当にアテナなのか?」
「お前たち、せめて優しくしてやれよ」
どうやら男達は教皇を装っていたサガに仕えていた雑兵達らしい。サガが倒された後も忠誠を覆さなかった為、聖域の者達から冷遇を受けているのだろう。
「やめて下さい」
その事を察した沙織が後ずさりをした瞬間、一人の男に腕を掴まれた。もう何日も風呂へ入っていないのであろう。汗と垢と埃にまみれた、すえた臭いが沙織の鼻をつく。
(もうダメだわ)
そう沙織が思った時―
「無礼者どもが」
鼻ピアスをした黄金の聖衣を身に纏った大柄な男が現れた。
「貴方は……たしかアルデバラン」
 驚きに目を見張る沙織をよそに、彼女の腕を掴んでいた男を片手で持ち上げると宙へ放り投げた。
「貴女は動かないで下さい」
そう静かに言うとアルデバランは男達を次々にのしていった。
「お前は手ごたえがありそうだな」
 アルデバランが男達のボス格らしい残った一人にそう言うとニヤリと笑った。
「雑兵と言えども聖闘士の端くれだ。真の聖闘士の技を見せてやろう」
そしてアルデバランは
「グレートホーン!」
必殺技を披露した。宙に舞う男の姿を見てアルデバランは
「ハッハッハ」
と豪快に笑った。そんなアルデバランの姿を沙織は唖然として見ていた。
「動かないで下さい」
とアルデバランに言われるまでもなく、沙織は身動きひとつできなかった。そして男達が全て倒されると、地面へとヘナヘナ座り込んでしまった。そんな沙織へアルデバランは
「立てますか、アテナ」
と問うた。
「こ、腰が抜けちやって……」
か細い声で答えた沙織に苦笑いを浮かべると、アルデバランはヒョイとお姫様抱っこをした。
「アルデバラン……さん。助けて下さってありがとうございます」
と言う沙織に
「貴女はアテナです。聖闘士や雑兵は呼び捨てで構わないですし、聖闘士や雑兵がアテナを助けるのは当たり前の事ですから、お礼もいりません」
とアルデバランは答えた。
「アルデバラン……」
そう呟く沙織の脳裏に十二宮での聖戦の記憶が蘇えった。沙織をお姫様抱っこして十二宮を登って行ったのも彼であった。
(あの時の温もりと同じだわ)
 沙織の胸へホットミルクを飲んだ時の様に温かい感覚が広がった。
(子供の頃に寝る前ホットミルクを飲ませてくれてから、辰巳が読み聞かせてくれた絵本にあったわ)
 女の子にはいつか王子様が現れるのだと。
(ちょっとゴツくて……ちょっと怖いけれども)
でも、この人が私の王子様なのだわ。沙織はそう直感していた。そんな沙織の頭をアルデバランが無言のまま不器用な手つきで撫でた。

「やっと見つけたわ……私の王子様」
 黄金に煌めく牛の角をまるで王冠の様にそっと触れながら少女は呟いた。―End.―             
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