星影のワルツ

夜空が澄み渡り星座がよく見える晩の事である。
小淵沢にある城戸邸の別荘で開かれた誕生 日パーティで、黒いタキシードを着た辰巳は沙織を見守っていた。
ギリシャ風な純白のロングドレスを身に纏い、黄金のアクセサリーを身に着けた、清楚な様子の城戸沙織は、周囲の紳士淑女から注目を浴びていた。
部屋の壁際に設置されたソファへ座り、ノンアルコールの梅酒を飲みながら、辰巳が日本酒でもあおるかのような仕草で沙織の様子を見守る。
ふと山梨名産の葡萄フルーツジュースを口にしていた沙織が、辰巳の手を取った。
「今晩は一緒に踊りましょうよ」
と沙織が辰巳の耳元へ囁いた。見る間に辰巳が茹蛸のように、頭の天辺まで真っ赤になる。
次の曲を演奏するようにと、指揮者がオーケストラへ指示を出した。
「あの、手前は踊った事は……」
と口をパクパクさせる辰巳に再び沙織が囁く。
「私〜わたくし〜のリードの通りにしてれば良いのですから」
沙織のアメジストの目に促され、辰巳が重い腰をあげる。
やがてワルツが流れ始めた。

「一、二、三」
と沙織が辰巳のリードを取るが、その動きは女性が男性にエスコートされている動きに捉えられる。ステップを踏む二人の影が、照明を落とした室内に差し込む星の明かりに照らし出される。沙織が動く度に紫の腰の下まである長い髪がたなびき、その華やかな香りが辰巳の鼻腔をくすぐった。
何時の間にか踊っているのは二人だけになり、周囲の注目を浴びていた。
「流石はグラード財団の総帥と執事ね」
と周囲が感嘆の声を挙げる。だが、当の辰巳は背中にビッシリと冷や汗をかいていた。
(流石は女神アテナの化身だ。こうも男がリードしているように振る舞えるとは)
と辰巳は心のどこかで感心をしていた。
曲が終わると辰巳がどこかぎこちない仕草で沙織嬢へお辞儀をし、再びノンアルコールの梅酒を飲みに戻る。
その傍らに立った沙織は
「流石に辰巳ね。見事な踊りだったわ」
と言った。辰巳はその言葉に再び赤面しつつ
(俺は一生を賭して沙織お嬢様に付いていくぞ)
と、常に持ち歩いている光政翁の写真が入った胸ポケットを手で押さえながら、新たに夜空の星に向かい誓ったという。―End.―       
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