もう休み時間は終わりなんじゃないかと思うほど、長い時がすぎたような感じがする。
今真田と私は、みんなとは少し離れたフェンスに寄り掛かっている。
「大丈夫か?」
「へ?あ、うん、ごめんねさっきはぶつかっちゃって」
「あのくらい大した事はない。俺達は毎日心身を鍛えているからな」
「…うん、」
流石だね、
常勝の名に恥じぬ行動を、真田は一番意識してきたんだなと思う。
「俺は畠見の案に直ぐ賛成した」
真田が向けた顔の先には、必死に説得する千鴇くんがみえる。
周りにいるみんなはうんうんと、千鴇くんの話をしっかり訊いていた。
いいなあ…あの関係性。
私も彼らとあんな風に、なれるだろうか。
「理由は簡単だ。…お前と畠見が同居している事や、畠見がマネで帰りが遅くなる為、一人で帰らねばならないお前を心配している事を聞いたからだ」
「心配?千鴇君が?」
「ああ、それに…最近畠見の体調も良くなくなってきている。毎日マネの時は張り切っているからブン太や赤也は気付いてるか分からないが、少しずつ疲労が蓄積しているようだ」
えっ…あの体力オバケが…?
「お前が人見知りをしてしまう性格だということも言っていた。それもあってアイツから、俺達のマネージャーをと提案したんだろう」
「…そっか、」
「後はお前の意志だ。全く、あいつも勝手に話を進めるからこんな事になるんだ」
真田の瞳には未だに、遠くで笑う千鴇君の姿が瞳に映る。
テニス部と千鴇君、彼らはとても信頼しあっている。完全に1つのチームとなっている。出会った最初から、それがとっても伝わってくるのだ。
そんな関係性に私が飛び込んでしまっていいのだろうか。
遠くで見守っていた存在が突然一番近くに来てしまう不安もあった。きっととんでもなく大変な事がこれから待ち受けているだろう。
ただ、真田の話から出た「千鴇君が体調が良くない」の一点がどうしても頭の中に引っかかり、それだけが行動源として私の身体を動かしたのだった。
「ああ、それともう一つ…俺達の野望を成し遂げるには、お前がいないとならないと仕切りにヤツは言っていたが……柳坂?」
気付いたら私は立ち上がり、真田と腰掛けたフェンスから離れ、みんなの元へと向かっていた。
「千鴇、」
「うをうっ!?どした美紀、具合悪いか?」
「違う違う!むしろその逆!
でさあ…あのですね…えっと………皆、やっぱり嫌かもしれないんだけど………」
「柳坂が自らマネージャーをやりたいと言っている」
「うわっびっくりした!あ、ありがとう真田…」
「うむ」
私の後から来た真田がヌッと顔を出して、言いたい事を代弁してくれた。
「まじか?美紀」
「は、はい。こんな私ですが、みんなの力になりたいです」
「だってさ。勿論、OKだよな?」
千鴇君が説得してくれたおかげか、さっきよりもみんなが歓迎してくれているような表情が伺えた。
笑顔で頷く皆をみて、
ホッとして
嬉しくて
私は今日一番の笑顔になった。
「柳坂美紀です。よろしくお願いします」
放課後。
真田によって集められたテニス部員の前で自己紹介をする。
「なぁ、同じ学年なんだし、敬語やめよーぜ?」
ブンちゃんが私に話しかける。
昼は結局話せなかったから、1時間目以来話すのは初めてかも。
「あ、ブ…ま、丸井君!そうだね、ありがとう…よろしくね!」
「おう、シクヨロ柳坂」
うんうんいいねシクヨロ!!ブンちゃんほんとに可愛いね!!ああわしゃわしゃしたい…
「やっぱ笑った方がいいぜ、お前」
「え?」
「ムスッとした顔してると真田みてーになっちまうぞって事!」
「゚3゚)*.゙・、ブッ」
「俺みたいにとはなんだ丸井!」
「やべっ逃げろっ!」
身軽にフェンスを飛び越えて逃げるブンちゃんを、お父上が「ふんぬぁ!」と乗り越えて追いかけていった。
私は楽しい光景にまた声を出して笑った。
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