夏陰






五月蠅いほどに蝉の鳴き声が響いてくる葉月のはじめに、五月蠅いほどにアイツの声を聞きたくなった

「よォ」

壁を短くコンコンと鳴らして部屋にあがる。

「…俺の居場所が分かる奴ァそうそういめーよ」

中で窓の外を眺めていた人物はちらりとこちらをみてそう言った

「褒めてんだよな、それ」
「さァな」

ククッと笑って、手に持つ煙管を置き俺に歩み寄る男。女物の着物を身に纏う彼は身長も俺よりずっと小さくて

「今日は何をお望みだ?」

すっと俺の着物の中に右手を入れ、左手は肩から背中を撫でるように伝う。
慣れた手つきだな、相変わらず。そう思いながら俺は高杉の右手を掴んで着物から出した
それと同時に背中の左手も動きを止める

「晋助、ちょっと散歩しようぜ」
「…何馬鹿な事言ってんだ、お前」

まるでやる気を無くしたというかのように床に座りこむ
俺はその隣に座って晋助に再び話しかけた

「今日はいい天気だな」

先程晋助が眺めていた窓の外の景色をみる

「部屋に籠るのは勿体ないしよ…」
「……」

晋助は相変わらずムスッとした顔をしていた

「…ヤケになってんじゃねーよ」
「……」
「ほら、行くぞ」

立ち上がって晋助に手を差し延べた。だがその手に晋助は反応しない

「…じゃあな」


「っ柊一!」

仕方ないと思い部屋を出ようとしたところで名前を呼ばれた

「ま…待てよ…」

立ち上がって俺を追いかけてくる晋助に、思わず笑顔が溢れ出す

「いくらでも待つよ」

いつかお前が俺に何もかも話してくれるようになるその日まで


END

(無理な願いかもしれない、けど)

8/10 高杉はぴば!








リゼ