3.陽 陰



昼下がりの町。

漆黒の制服を着た三人の男がそれぞれのペースで歩いている。
華やかな町には不似合いな格好の彼等だが、町人は特に違和感を感じない。
彼等は特別警察、真選組だからだ。


「土方さん、あそこの団子食っていいですかィ?」

「ダメd「おっちゃーん、団子二つー。ツケはコイツで」…って買ってんじゃねーよ!!つかなんで俺がお前の団子買ってやんなきゃいけねーんだ!?」
「まぁいいじゃないですかィ。」
「よくねーよ!!」
「・・・・・・。」

相変わらず自分よりも前を歩く二人を眺める。
こいつ等、仲いいんだか悪いんだかわかんねーな。

「お前…名前なんつったっけ?団子食う?」

突然、団子を頬張った沖田が後ろを振り返って俺に話しかけてきた。

「武鳶です。…勤務中ですので。」
「下の名前は?つれねーなアンタ」
「柊一です。すみません」
「柊一」
「はい」

「死ね」
「・・・・・それは上司命令ですか?」
「いや、個人的に」

それはそれでキツいんだが。


「今ここで死ぬわけにはいきません。やることがありますから」

「へー。やること…ねィ。」

ニヤリと笑う沖田をみて、何故だか俺は鳥肌が立った。


「おいなにしてんだお前ら!はやくこっち来い!」

土方が数十メートル先で俺達を呼んでいる。
…なんだか、奥が騒々しい感じがする。

「土方さんが歩くの速いんですよー。」
「いいからさっさと来い!事件だ!」

「事件?」

初任務にして初事件、か。
放送日数に合わせようとしてやけに展開のはやい刑事ドラマみてぇだな。

「めんどくせーなー。お前土方さんと一緒に片づけてこいよ」
「わかりました」

俺と喋っていたせいか未だに団子を食べ終わっていない沖田に敬礼し、現場に向かった。




「土方さん!」
「武鳶!…総悟はどうした?」
「団子を食ってます」
「…あんの野郎…!!お前もそこは強引に連れてこい!」
「はい。すみませんでした。」
「・・・・・・。」
「町民の乱闘ですか?」
「…っ、ああ。どっちが先にぶつかったかってな内容だ」
「しょうもないですね…」

「そうだな」

土方から視線を外し、騒ぎの方へ目を向けると、男二人が服をつかんで言い争っていた。

「大体お前の周りの女は皆お前のことキモいっつってんだよ!」

「っるせぇ!!お前なんかこの前女房に逃げられてただろーが!!」

「な、なんで知ってんだよ!!」

…もう喧嘩は元の原因からかなりかけ離れたものになっているらしい。

「おいテメェら、やめねーかこんなところでよ」

土方が野次馬をかき分けて男たちを説得しに行き、それに俺も付いて行った。

「あぁ!?うっせぇよ幕府の犬がよ!!!」

一人の男が土方に向かって罵声を浴びせる。

酷ェ言われようだな。

もう一人の男もそれに続いて文句を言う。

「ちったぁ黙ってろってんだこの…ん?お前…柊…?」

「!?…何故俺の名を…ぁ…」

やばい。

「お、お前生きて…あ、ちょっ、待てよ!!!」

俺は土方の腕を掴んで人ごみをかき分け走った。

とにかくその場から遠くに行かなければいけないという気持ちでいっぱいだった。

遠くから仲間の声が聞こえる。
遠い昔の――…








コイツの知り合いのような奴に声をかけられた途端、腕を引っ張られた。

最初はなにがなんだか分からなかったが、冷静になった今はただコイツの焦る背中をみつめていた。

「おい…おい武鳶」

さっきからおれの声なんかちっとも届きやしない。



タッタッタッタッタ・・・・

タッタッタッタッタ・・・・


しばらく走ってお互いに息が切れてきたところだった。

「おい!!お前いきなりなんだ!?」

大声で叫ぶと、武鳶は立ち止まり、振り返る。

「…すみません」

・・・ああ、またか。

「チッ…お前なぁ、さっきから謝りゃいいと思ってんだろ?」

「…すみません」

「…人の話聞いてんのか?」
「すみません」

この時、俺の中の何かがプチンと音をたてて切れた。

「っお前俺をからかってんのか!!」

バッ

「!!」

気づいた時には拳を振り上げていた。

腕のあるやつだ、どうせとめられてしまうだろうと思っていた。

が、しかし

ドスッ!!

「ぅ…!!」

ズシャッ

「え・・・」

俺の拳は武鳶の左頬を直撃していた。

「お、おい!?大丈夫か!?!?」

とっさに俺は尻餅をついた武鳶の横にしゃがみこむ。
よくみれば赤く腫れた左頬には最近つけたようなかすり傷があって、さらに俺を気弱にしていく。

「っ…大丈夫、です。」

「すまねぇ…てっきりよけるもんだと思って…」




「おれの特殊体質です」

「え?」

「拳を振り上げられると、足が動かなくなるんですよ」

へらへらと笑いながら武鳶は語る。

「…それは体質じゃなくてトラウマじゃねーのか?」

「トラウマ?…どうなんでしょう。幼い頃の事は、覚えてません」

そう言ってまた彼は笑う。


そういえば初めてコイツの笑顔を見た気がする。

こんな笑い方すんだな…



って何俺男の笑顔見て和んでんだ…



武鳶に手を差し出して起き上がらせた。

幸い俺の殴った部分以外はけがをしていないようだ。

黒い制服の白くなった部分を払い落す。

新品の隊服、早速汚しちまったな…




「うわっ痛そー。新人いきなり殴っちゃうとか土方さんとしてどうなんですかィ?」

この声は。


「今まで何処行ってた総悟?」
「赤ちゃんが生まれそうなおばあちゃんを病院までおぶってやったんでさァ」

・・・ツッコミ所満載でどうつっこんだらいいかわかんねぇよ。

「とりあえず全員揃ったし、今日はこのまま屯所に戻って見回り終了だ。ご苦労だった。」

「ありがとうございました」
「ああ…すまねぇな。」

「なんですかィ?もしかして俺のいないうちに二人…」

「なんもねーよ…汗」

こうしてなんとか、色々と騒がしい武鳶の初仕事は終わったのだった。





3-END






リゼ