宿行
強い鎧を、身にまとって生きてきた。


それは、生まれであったり、幼いころからの英才教育であったり、就いた官職であったりして、私という存在を証明する確固たるものだ。

それらは決して揺るがないし、どうやっても脱がされない。
私を守る強固なもの。
そう信じるに足るものだった。


信じて「いた」





「・・・まだキツいですね」

姜維は、まったく表情を変えないで私の中に突っ込んだ指を二本に増やした。
乱暴に、広げるように動かされ、内壁を引き裂かれるような痛みを感じて思わずうめくと、この涼しい顔をした蹂躙者はなんとも楽しそうな顔をして笑う、それがまた恐ろしい。

「もう三回目なのに、いつまでたっても処女みたいだなんて、これも英才教育のおかげなんでしょうか?」

そんな馬鹿なことが、と言おうにも、声がくぐもってうまく形にならない。
ただ、獣のようなひどいうめき声だけが響いた。

最悪だ。

最悪なことは何度されたって最悪なのに変わりはないというのに、いつの間にかそこから違和感が消えて、残ったものは強烈な不快感だった。


「いつになったら慣れてくれるんだろうなあ、鍾会殿は。私ばっかり動いてるなんてつまらないのに」

そんなことを言いながらも実に生き生きと姜維は私を苛む。
いつの間にか指は三本に増やされて、中でばらばらに動く感覚が実に気持ちが悪くて、しかもそれに比例して痛みはひどくなる一方だ。

急に水音のようなものがぐちゅぐちゅと立ち始めたのは、きっと、中で出血しているに違いなかった。

なぜ、こいつは爪を切らないのだろう。

毎度のことながら、不思議で仕方がなかった。
中がぐちゃぐちゃとかき回されると同時に、中を爪がかすって痛くて仕方がない。
たかが爪でひっかかれたくらいで、こんなにたやすく傷つく自分がいる。

私の鎧は身体の内を覆わない。


血が潤滑剤となったことで気をよくしたのか、指の注挿がさらに激しくなった。
ぐりぐりと、前立腺を中心に攻めるあたり、正直すぎる奴だと思う。
粘液の擦れる音と、ひりひりとやけつくようなそこの痛みが私を苛む。びくびくと反射的に身体が反り、断続的に悲鳴のような声が漏れた。

今、自分がどんなひどい状態になっているのだか。想像もしたくない。


「痛、い・・・きょうい・・・」

耐え切れずにつぶやくようにして言うと、動きはぴたりと止んだ。

ああ。こいつにも少しは通じる言葉があったのか、という淡い希望は、次の一言でいとも簡単に破壊された。

「え、だって鍾会殿、痛いの好きでしょう?」

きょとん、としたその瞳にはどこまでも邪気がないように見えた。
そもそも、この男の目は真っ黒ににごりすぎていて、もうなにも見ることすらできない。

初めて会ったときはそうでもなかったはずなのに、いつの間にこんな目をするようになったのか。

「そ、そんなわけが・・・っ」
「だって、ここ・・・気持ちよさそうですし」

姜維が、腰布越しに私の自身を握った。


「いつの間にか勃起させてたの、気づいてたんでしょ?」

乱暴に擦られて、摩擦で皮が痛い。
痛いと思いながらも、ますますそこに血が集まっていくのが頭で感じられるのが気持ち悪い。


そこ、そこ、そんなふうに触られたら。

「ねえ、今どんな感じなんですか?」

あたまがぼんやりする。


・・・どんな感じ。

自分は今、どんな感じなのだろう?

考えるのもおっくうで、もう、このままどこまでも転落してしまいたい気分だった。


「鍾会殿」

息をかけられるように耳元でつぶやかれ、背筋がぞくぞくとした。
それだけで達してしまいそうになる。どうにかしている。

「ねえ、言って?」

操られるように、ぼんやりと口を開く。
それが実に流れるような動作で行われていくのが、自分で信じられなかった。

しかし、それも仕方のないことなのかもしれない。


私の鎧は口を覆わない。



「言って・・・?」
「・・・ふ、あ・・・指、いやだ・・・ほしい・・・」
「なにが?」
「きょ、きょうい、の・・・ちんこ、ぉ・・・・」

一瞬の間。
なんでこんなことを言ったのか。

もうかまうものか。

そんなことより、この身体の中の熱さをどうにかしてほしくて仕方がなくて、私は浅ましく腰を揺らした。



「急に積極的になって・・・。そんなに欲しいんですか?私の・・・なんでしたっけ?」
「や、あ・・・・もう言えない・・・」
「言えないんですか?さっきあれだけいやらしくおねだりしておいて・・・・」
「きょう、い・・・・」
「・・・仕方ないなあ、鍾会殿は」

布の擦れる音がした。

あ・・・。

思わず声に出した、同時に、後庭に質量を感じた。

圧倒的な熱が、私の内側を犯す。

肺の臓から、押し出されるようにして小刻みにあえぎが漏れた。

「は、ああ・・・・」
「すごい・・・鍾会殿の口から、女みたいな声が漏れてますよ?」
「や、やだ、そこ、そんなにひどくするな、あ、あ・・・」
「こんなに悦んでるのに、そういうことを言うあなたは本当に素直じゃないんですね」

悦んでなど、ふざけるな、と思う一方で、ようやく望みのものが与えられた悦楽にひたり、みっともなく舌を突き出して、身をよがらせてあえぐ。


私はもはや私ではない。

いいや、もしかしたらこれこそが、私なのだろうか。


「ひィ、いい・・そこ、きょうい・・・もっと強く・・・・!いっあ、ああ・・・」


私の鎧は、心を覆わない。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「お疲れ様でした」

目が覚めると、忌々しいほどさわやかな笑いが目の前にあった。

昨夜の、あの冷たい暗い目はどこにいってしまったのか、面影すらない。
それは、初対面で見せた、爽やかで情熱にあふれた若将軍の目だ。

・・・もうなにも考えたくはない。

「それにしても、以前と比べてだいぶ素直になっていただけて、うれしいです。最初は大変でしたから」

思い出したくもないことを聞かれて、さすがにうんざりして、寝台の布に顔をうずめた。
なんの冗談か、残り香がしみこんだ部分に直接鼻が当たり、さらにうんざりした。

「でも、私とが初めてじゃなかったんでしょう?相手は?」
「・・・・・」
「もしかして、トウ艾?」
「違う」

思わず、吐き捨てるような声が出た。


あの男は、そういうことを考え付きもしなかっただろう。

触れるときもためらいがちで、私はいつだってやきもきさせられた。
あいつはそういう男だ。

結果的にそういう関係になったこともあったが、今でもあれは夢だったのではないかと思う。



「・・・そう」

ふうん、と、なぜだかつまらなそうに、姜維は私の首に両の手を当てた。



ぎりぎりと、気管が狭まっていく。

ひゅうひゅうと、かぼそい息の通る音が自分の耳にひどく気持ちが悪かった。



私のまとう鎧は、首を覆わない。




「よかった。もし肯定されたら、あなたの首をどうにかしてやりたくなるところでした」

・・・もう、どうにかなっている。

こんなときに、重い鎧はまるで役に立ちはしない。
いっそこれを全部脱げてしまったらどれだけ楽なのだろう。
けれど、着慣れた鎧は身になれすぎて、身体にぴったりくっついてはなれないのだ。



薄れてくる意識をぼんやり手放しながら、つくづくトウ艾に感謝した。










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一度経験しちゃえば淫乱の素質ありまくりな鍾会さんは好きですか?はい、好きです。



鍾会に「ちんこ」って言わせたかっただけでしたすみません
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