Clap your hands!
ぱちん、と乾いた音が鳴った。
俺の手は、気持ちを奏でる。
あの人の、声が好き。
いつもは、部下たちに威厳と畏怖を示すために使われるそれが、この時だけはぐっと優しいものに変わる。
「辛くはないか?」
耳元で、それは低く、響く。
はい、と答えると返ってくる、
あの人の微笑みが好き。
心の底から安心したような、ちょっとだけあどけなさを感じさせるそれ。
いつだって気難しい顔を崩さないいつものあの人らしくない、けど、とっても似合ってる微笑みを見ると、俺まで自然と笑顔になる。
俺の体をなぞる、あの人の指が好き。
武人なのに白くて繊細で、でも芯のしっかりとした、あの人らしい指。
全て、普段のあの人からじゃ想像もできない、
語り合って、触れ合って見つけた、俺だけのもの。
あなたと語り合って触れ合うこのときがなによりかけがえない時間です。
俺は、幸せです。
なんて、言葉にすると安っぽい。
「とても」とか「たまらなく」とか、「死にそうなほど」とか、幸せの上につける言い方は色々あるのだけど、
どんなにキレイな言葉でかざろうとも、それは心から外に出した時点で急速に色をなくしてしまう。
とても、とても。とても幸せだから、余計にそう思ってしまう。
そんなことを考えて、言わないから、俺の気持ちはきっとこの人には伝わらない。
もどかしいようで、俺はそんな状況を、もしかしたら楽しんでいるのかもしれなかった。
気持ちは伝わらなくても、
心の中ではいつだって軽やかに気持ちが踊っているのだ。
その気持ちが確かにあるのだから、
ぱちんぱちんと手をたたいていると、横でもぞもぞと大将が身を動かした。
さすがにうるさかったのだろう、起こしてしまったようだ。
「どうした?ずいぶんと楽しそうだな」
「はい」
あまり多くは語らないで、俺はまた ぱちん、と小さな音を出して、
それが和音になったことに驚いた。
もう一つの音の主は、なんとなく意地の悪い顔で笑っていた。
俺の手は気持ちを奏でるけれど、
俺たちの手は、幸せを奏でる。
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