マフラーぎゅっと
雪が降った日は、いつもより空気がちくちく痛い。
元来の寒がりに加えて、今年の冬の異常な寒さ。しかも、着ている服の構造上、どうしてもあちらこちらの布の薄い部分が無防備になってしまうので。
そして、こういうときに限って外にいるわけだ、俺は。
参ってしまう。こんな寒空、外に出ねばならない我が身の立場を呪ってみる。そうするより他にない。
くだらないことを考えて感覚を紛らわそうにもどうにもならず、ふるふる震えていたら、ふわりと、首元になにかが触れた。
よろしければ、どうぞ。
にっこり笑ったのは、青と金色の組み合わせだった。
マフラーだ。
気づいたのは、「やはり彼か」と思ったその後。
今巻かれたばかりだというのに、その布はほんのりあたたかい。
多分、今まで彼が巻いていたんだろう。
大きくてとても長い、実に彼らしいお持ち物。
首元から、ぬくぬく幸せな温度が体中に広がっていく。
そんな感覚と、なにより彼の心遣いが俺はうれしくて、子供のようにはしゃいで、巻いてもらったマフラーをもう一度自分でしっかり締め直した。
そんな様子を見ていた彼は、ふと、なんだか慌てたように。
私が巻きます。
もう一度マフラーに手をかけてかいがいしく巻いてくれるものだから、せっかくだからそれに甘えることにした。
けれど、しばらくして完成したマフラーの感覚は、なんだか落ち着かない。
彼の巻き方は少々柔らかすぎて、動いたらすぐにほどけてしまいそうなのだ。
もう少し、強く絞めてくれないか。
俺の注文に、彼はますます慌てたように、
では、加減しますのでちょうどいいところで声をかけて下さい。
言って、マフラーの両端を持ってゆっくり力を入れはじめた。
俺は、マフラーがじょじょに締まっていくのを感じながら、目を閉じた。
もうちょっと。
いや、まだ。まだ、強く。強く。
ぎゅうぎゅう、巻かれるマフラー。
しまっていく俺の気管。
白んでいく意識。
でもまだ。まだたりない。
もっと強くしてほしい。
強く。
だが。
ある一点で、力がぱたり緩んだ。
これ以上は、
と彼の半ば怯えたような声がする。
なぜ?
なぜ彼はためらっているのだろう。
これからが、いちばん素敵なのに……
俺は、そっと目をあけて。血の通わない、ぼうっとする頭で、言った。
どうせなら、しっかり巻いて欲しいんだ。
君のマフラーが、二度と私の首からとれないように。
君の体温を感じていたくて。少しだって、逃がしたくないんだ。
だから………
突如。
今までの彼の優しさからは想像もできないような、凄まじい力をもって、マフラーが引っ張られた。
ぐ、と、かえるを潰したような音が喉から漏れる。
ぎりぎりと、音がしそうなほどの、布に硬度が与えられるほどの力で絞められていくマフラー。
甘美だった。
この快感が、あの、誠実な金色から与えられているという事実。
不当な暴力をなにより嫌う彼が、ただ俺に苦痛を与えているという事実。
それらが俺をさらに興奮させた。
ああ、そう、そうだ。もっともっとしめて。
それがいいんだ……
あれ。
そういえば、なんで俺は、こんな寒い中、外に立っていたんだったのだろうか。
いや、もうそんなことは大したことではない。
ああ、そう……。それでいい。
そのまま、ぎゅうっと、して……………
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