My hands
ベッドの上で、彼は息を荒げていた。

服は着ない。こちらのほうが手足の自由が利く。

今何時なのか、どれほどこうしていたのか、果たしていったいここがどこだったか、それすらもはっきりしない。
さきほどから、頭の奥のほうがぼうっとしている。
もったいぶるように、まだ完全には勃ちあがってはいない先端を指の腹で弄り続けていたためだろうか、快楽は明確に感じているのに絶頂はどんどん遠くなって、同時に自分自身すら見失ってしまいそうだった。


それでも、彼の意識はただ一点において非常にクリアな状態を保っていた。

ほんのりとした照明しかない部屋の中で、一筋、はっきりとした光がさしている場所。

完全には閉まっていないドア。
・・・いや、その表現はいささか正しくない。


光は、彼の体の下のほうを周りよりも明るく照らしていた。


彼はそれを確認して、一つ小さく息をついてから行為を本格的に開始した。
手をそえてゆっくり根元の方をやわやわとなで上げると、待ち望んでいた刺激に素直に体が反応する。

徐々に徐々に、手を下から上へ。
浮き出てきた血管をなぞるように、くびれを周回するように。


「っひん・・っ」

するどい快感が走った。
亀頭の先端に、爪がかすったのだろう。

最初はまったく感じなかったその場所も、行為のたびにあの人がしきりに触るため、今ではすっかり敏感になってしまった。

こんな場所がイイだなんて、思ってもいなかった。

そして、その快感を彼に教えたのは、やはりあの人だった。


「あんっ、たいしょ・・そこばっかり、いや・・・!」


重点的にそこを弄りながら、今この場にはいない人間の名前を、彼は嬉々として叫ぶ。

『君は確か、ここがいいのだったな』
そういって、あの人が亀頭を引っかくように刺激する。

「そう、そこ・・・そこ、いいのぉ・・・!」


頭の中の声に答える彼の声は、震えながらも甘い。


目に映る光がふわふわと揺らぐ。

ぐりぐりと先端を刺激して、にじみだしてきた体液に空気を含ませてじゅくじゅくと音を立て、いやらしく滑る指を、高々と掲げてみせる。
彼一人しかいない部屋で、誰に見せるわけでもないのに。

「あは・・・こんなに、ぬれてる・・・」

まだ、ちゃんと出してないのに。

彼は満足げにつぶやいて、自身の体液で塗れた指を舌で舐めあげた。
独特のにおいと熱が、さらに興奮をあおる。これが本当に自分のだなんて信じられないくらいに。

彼は、もう一度ドアの光を見た。
そちらに向き直って、しっかりと足を開いて、舐めた指をゆっくりと、ゆるくなった孔にうずめていく。

若干の抵抗と同時に彼の全身をかけぬけたのは、ひどい圧迫感と、幸福感。

彼にとって、これは自身の指などではないのだ。

いつもされているように、奥へ、奥へと指を進入させ、想像のあの人の指が上下に動くのにあわせ、孔に埋めた自身の指を多少乱暴に抜き差しすれば、熱いほどの快楽が湧き上がる。


「う、あ・・・っは・・・!」

空いた左手を陰茎へもっていき、一心不乱に上下に動かした。

中と外とで、もう、いったいどこが気持ちいいのかすらわからない。
しきりにびくびくと痙攣する体は、彼自身どうしようもなかった。



ずぶずぶ、ぐちゅぐちゅ。


・・まるで耳から犯されてるみたいだ。

ああ、ちがうちがう。
俺の体からこんな音なんてでるわけない。


おねがい、早く来て、早く。


早くしないと、俺が・・・!




「ああ、ダメ、だめ、イく、イっちゃう・・・っ!!」





「シュヴァーン」


彼の動きが、ぴたりとやんだ。
さきほどの激しい喘ぎ声と全身の痙攣はどこへいってしまったのか。

周囲は、さきほどより大きな光につつまれていた。

その逆光に照らされているのは、彼よりもっと立派な体躯。


「ぅ、あ・・・・・・」

その人物の正体を見極めて。

ほう、と、彼の口から小さく息が漏れた。


火照ったベッドの上の体をその人影に向けて、そして、薄く口を開く。



「お待ち、していました。」



言い終わらないうちに、彼の体は大きな体に組み敷かれて、見えなくなった。
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リゼ