ぺちゃんこケーキを一つ
景気よくハンドミキサーが回る音が体全体に響いて気持ちがいい。
俺はいつものごとくキッチンに立って、卵や粉やチョコレートを混ぜたものと格闘していた。
いつの間にか、休日にはなにか菓子を作るのが恒例になっている。

今日は、前回作って好評だったカップケーキ。
なんだかやたらタネの量が多い気もするが、まあ余ったら黒たちやGに配ればあっという間になくなるだろう。

よし、メレンゲは完成。あとはこれをタネに混ぜてカップに入れて焼くだけだ。
今からあいつらに食わせるのが楽しみで仕方ない。

と、そのとき。
突然背中あたりになにかが「ゴン」と当たった。
なんだと思って振り向くと同時に、今度は腰に手が回ってきた。
「けーけー。」
そこにいたのは、我らが神様。
「なんだお前か」
「またお菓子?休みなのに。」
神様がそんなことを言うとは、意外だった。
いつも、一番美味い美味いと言って菓子を大量に食べるのはこいつなのだ。
「不服なのか?俺が菓子作ってんのが」
「不服だ」
これまた意外なお返事。
てっきり、一番楽しみにしてるのもこいつだと思っていたのに。
俺はまた正面を向き、メレンゲをタネと混ぜる作業を再開した。
会話するなら、作業しながらでもいいだろうと思ったのだ。
「で、なんだ、もう俺の作るもんは飽きたか?」
「違う。」
「じゃ、なにが不服だ?」
そう言ったとたん、腰に回された腕にこもる力が増した。
締め付けられる痛さに思わず顔をしかめた俺の背後から、神様の小さな声が聞こえた。
「だって、菓子作ってるとKKは俺なんか眼中になくなるじゃねえか」
思わず俺は息を飲んだ。
音量は小さいのにやたら心に響くその声に圧倒されたのもそうだが、その声がきっかけであることに気付かされたからだ。
そういえばこのところ、休日にゆっくりこいつと話をしていない。
昼間は菓子作りにかかりきりになっているし、夜は夜で兄弟たちと飲みに行ったり、そうでなければ早々に寝てしまったり・・・
「この頃ちゃんと話してくれないし・・・。もしかして、KK、俺のことどうでもいい?」
俺ははっとして、全ての道具を台に置いてしっかりと後ろを向いた。
ふてくされた顔でこちらをじっと見つめてくる神様は、神というよりは利かん坊だ。
そして、その目の光は思わずたじろぐほどに強い。
「飽きるわけねえだろ。そもそも、いつも誰のために俺が菓子を作ってると思ってんだ」
「KK・・・」
俺は、この利かん坊な神様をなだめるように強く抱いた。
「なんていうか・・・悪かった。俺が無神経だったな」
恥ずかしい台詞も、こいつ相手ならこうして抵抗なく言える。
「だから、機嫌直してくれ」
「子供相手にするみたいに言うなよ。分かればいいしな」
さっきまで腰に回っていた神様の腕が、いつの間にか肩に場所を変えている。
この野郎、ちゃっかりしやがって、と俺は心の中で苦笑した。

しばらくは、このまま。
今日はとことん付き合おうじゃないか。
今までの埋め合わせも兼ねて、たっぷりと。




その後、作りかけだったカップケーキのタネは、神様が満足し終わった後にようやく仕上げられた。
かなり時間が経過してメレンゲの泡がほとんど消えた状態で焼いたため、ケーキはほとんど膨らまずにかなり悲惨な結果になったが、神様はなにも言わずに黙ってたいらげ、「美味い」と一言。
俺は笑って相槌をうった。

事情を知らない影だけは、これのどこが美味いのかわからないといった感じで首をかしげていたけれども。
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