いっしょ生活
今日も朝がやってきた。
朝ごはん、作らなきゃ。
俺は椅子に座ってぼんやりしているKKににっこり微笑んで、美味しいごはん作るからな、と言った。
KKは黙っている。
黙っているけど俺には分かる。
「火には気をつけろよ、包丁で手を切るなよ、火傷しないようにな」と、心の中で絶えず俺のことを心配してくれているんだ。


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朝ごはんを作るのは、前まではいつもKKの仕事だった。
俺がKKの家を訪ねたり、泊まったときには起きてきた時間ぴったりに、KKはいつも温かいごはんを用意して、俺のことを待ってくれていた。
俺にはそれがとても素敵なことだったし、俺に料理を食わせるときのKKの顔も、いつにも増して可愛かった。
俺はKKの料理を、ずっと食べ続けてられるんだって、信じて疑わなかった。
だが、それはある日一変した。

その日、KKに頼まれて留守番をしていた俺は深夜に玄関先でなにか大きな音を感じた。
驚いてドアを開けると、そこには血まみれのKKがピクリとも動かずに横たわっていた。

仕事にしくじったんだ・・・!

俺は瞬時に全てを理解した。
KKは息をしていなかった。

命の切れる寸前だというのに、必死でここまでたどり着こうとしたんだろう。
きっと、俺に助けを求めるために。

俺はすぐにKKを部屋に運び込み、音治療を施した。
音治療は人間の中の治癒力を高める力だ。KKの中にそれを活用できるだけの治癒力があるか心配だったが、結果は成功だった。

だが、その時からKKは、一切なにも出来なくなってしまった。
前みたいに立って歩くことも、言葉を話すことも、もちろん料理をすることも。
俺はとても悲しくなった。
もうKKとじゃれあえないなんて。KKの声が聞けないなんて。KKの料理が食べられないなんて。

悲しくて、感情に押し潰されてしまいそうになった。

だが、しばらく絶望した末に、俺はこう考えることにしたんだ。
KKが生きてさえいればいいじゃないか。
声を発することは出来なくても、KKはいつも俺の心に直接語りかけてくる。
だから、俺は動けないKKを支えなきゃ。

今度からは、料理も俺が作るんだ

それから、俺は一心不乱にKKを支えた。
任せきりだった家事も、なんとか覚えた。
料理はKKがやっていたのを見よう見まねでやっていたが、最近は自分でアレンジが出来るくらいにまでなった。
俺の時間は、全てがKKに捧げられていく。

KKは、声には出せないけれど、心の中でいつも「ありがとう」と微笑んでくれた。
俺はとても嬉しくて。
これが、俺の生き甲斐になった。

それが、もう二週間以上前のこと。


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俺は台所にたってエプロンをつけた。
KKがいつもつけてるヤツをこっそり借りて。バレてないのか、それとも黙認してくれてるのか、今のところKKに怒られたことはない。まあ多分後者だろ。俺、愛されてるから。

冷蔵庫には、充分な食料が蓄えられている。これなら豪華な朝食が出来そうだ。
早速サラダ用のレタスを洗おうとして、俺はハエがやたら頭上を旋回しているのが気になった。
ぶーん、と、重厚感ある羽音を響かせて、規則的にあっちこっち飛び回っている。
別に毒を持っているわけじゃないし、なにか悪さをするわけじゃないけど、気持ち悪いしなにより不潔だ。

俺は軽く指先を、重く飛ぶハエに向けた。
ハエは、とたんに弾けて跡形もなく消え去った。

よし、邪魔者は消え失せた。
俺は改めてエプロンの紐をしめ、包丁を握った。



それからしばらく野菜と格闘した末に、ようやくサラダは完成した。
俺は思わずにやりと笑った。
ドレッシングはヘルシーさを重視して手作りだ。
朝からKKのために頑張る俺も甲斐甲斐しいな。
サラダを作ったら、卵とベーコンを焼いて、パンを焼こう。
パンには俺手作りのジャムを添えて。KKはきっと喜ぶだろうな。

ふと、また俺の頭上でぶーんという太い音が聞こえた。
上を見ると、またデカいハエが飛んでいる。
しかも、今度は二匹だ。いや、よく見ると向こうにもう二匹いる。
ったく、なんでこんなに多いんだ?
ゴミはいつも綺麗に片付けているし、特に生ゴミは厳重に密閉して始末しているのに。
俺はさっきと同じように指先をハエに向けて、瞬時に撃ち落とした。
パシュパシュと間抜けな音を立てて、ハエはなんの抵抗もなく消えていく。
ったく、せっかくの料理を汚されてたまるか。

俺はいい感じに焼けてきた卵をかき混ぜながら顔をしかめた。
そういえば最近ハエが多いな。昨日も、一昨日も見た気がする。ゴキは出ないのが唯一の救いかも知れねえけど。
今度、殺虫剤と避虫剤を買ってこよう。

さて、卵もベーコンもいい具合に焼けた。
皿に盛ってケチャップかけて出来上がり。
ちょうどパンも焼けたみたいだし、なんて素晴らしいタイミングだろう。

「KK、出来たぞー!」
テーブルに出来た料理を運んでやると、KKが「旨そうだな」と俺に話しかけてきた。
「まあな。KKへの愛を込めて作ったぜ」
するとKKはなんだか戸惑った様子で「うるせえ」と呟くのだ。
本当にKKは可愛いな。

「んじゃ、俺が食わせてやるからな」
KKは手が動かせないから、俺が口まで運んでやるんだ。
俺はスプーンに卵を乗せて、そっとKKの口元に運んだ。
ぶーん、と、またあの羽音が俺の幸福な気持ちに突然水をさした。
よく見ると、KKの顔にハエが止まっている。
しかも、これまた二匹だ。
綺麗で可愛いKKに、ハエなんて全く似合わないのに。
俺は苛立ちまぎれにそいつらを始末して、KKに向けて、最近ハエが多いんだ。と語りかけた。
KKは無表情に、だけど心では苦笑して俺にゴミの始末方法について散々ダメ出しをした。
表では無表情な顔とそのギャップがまた俺を愛しい気持ちにさせるんだ。

そういえば。
俺はふと思った。
KK、この頃肌が綺麗になったよな。
前はなんの病気か知らないけれど、皮膚がところどころ白く波うっていて、少し見苦しいときもあったのに。今は大分マシだ。

きっとこれも、俺の料理の腕が上がって、栄養のあるものを作ってあげられるようになったからだろう。
な、KK。
「そうだな。ありがとよ、MZD」
KKは、にっこりと俺に微笑みかけてくれた。

俺は幸せだ。
この笑顔のためなら、毎日頑張ることだって苦じゃない。

俺は、改めてKKの口元にスプーンを運んだ。
「はい、KK、あーんして」

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