bloody kiss
キスされて血が出た。

いや、キスなんて可愛いもんじゃない。
上唇を食い千切られん勢いで噛み付かれた、そう、言い換えるなら、肉食動物が獲物の肉を引きちぎるみたいな、そちらのほうが正しい。

噛まれたところだけがやけに熱い。
自分では見えなくても、じわり、と血が滲んでいるだろうことがはっきり分かる。

だが、当の動物は、ゆっくりと唇を離して、どこかぼんやりとした表情で
「赤は綺麗だな」
そんなことを言う。

ふざけんな、こっちはそれどころじゃねえ。
そんなに激しい出血ではないが、だからこそ痛覚がじわりじわりと刺激されて痛みを強く感じる。

唇をぬぐおうとした手は、すばやく腕を回されてあっさりと封じられた。
「綺麗なんだから、消すな」
「・・・どこが?」
どんなおかしな趣味してんだか知らないが、綺麗だなんて冗談じゃない。
自分では何かしているわけでもないのに、傷口がうずく。
ドクドクと鼓動だけがやけにリアルに感じられて気持ちが悪い。

「赤はきっと、血の色だから綺麗なんだろう。俺は赤が好きだ」
「詩人だな。趣味悪ぃけど」
いいから、早く止血させてくれ。
口端から垂れてくる血は、受け止められることなく床にしたたった。
「血を流す動物はみんな生きている。生を感じられるから、赤を見ると安心できる。たぶんそういうことだ」
「いい加減にしないか?俺は」
頭にきてる、と言おうとした口は、獣の再度の口付けで完璧に封じられた。
「お前の血は、特に綺麗だ」


獣が笑った。穏やかな、だが確実に自分に対する勝利を含んだ笑いだった。

彼はもうあきらめた。

黙って、もう一度獣に唇を差し出した。
口付けが、降ってくる。
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リゼ