ナルトに支給された新しい部屋は文句のつけるところがないと言っても過言ではなかった。
サスケ自身が見取を決めたと宣っていた調度品やその家具の置場のセンスは流石としか言い様のないものだったし、ナルトが一番危惧していた盗聴盗撮等の心配もまるで無用。隅々まで探したけれどそのような犯罪まがいの機械共が発掘されることもなく日用品は綺麗に収納され、なんと服までも勝手に買い与えられクローゼットに詰め込まれている。おそらくサスケがナルトの私服ファッションも彼の知らぬ間に調べていたのだろう。ナルト好みのブランド物がずらりと顔をそろえていて、それは彼を非常にうろたえさせたのだ。ちなみに着てみるとピッタリで思わず鳥肌が立ったという話は後日談である。

こちらが萎縮してしまうくらいの部屋なのは容易に想像できよう。なので、バトラーやハウスキーパーなどの上級使用人まで差し置いて大変素敵な場所を提供されたナルトが、他の使用人等に妬まれやしないかと大変ヒヤヒヤしていたのは至極普通の思考回路である…………が、しかし、むしろ皆さんから多大なる同情されてしまうくらいに反応は平和で、己の妄想に胃を痛める行為は馬鹿馬鹿しいの一言に過ぎない代物だった。仕事中もさほど親しくもない使用人から「貞操は守れよ……」なんて神妙な面持ちで肩を叩かれるほどにまで至るし、サスケはあの一件から随分おだやかになり環境も上々、心配はないし問題もないのだ。

そう、ただ一つ、ナルトがどうしても納得出来ないことがあることを覗いて。



「おはようナルト、今日は休みなんだろ?一緒に朝食食おうぜ」
「……んう……」

それはずばり毎度ナルトの貴重な休日をサスケがマスターキーで破壊しにくることだった。

「ううん………ま…またでございますか…」

ナルトは重いため息を吐き頭を掻き撫で、寝覚めの細い目で未来のうちはの当主であるサスケを眺めた。
割り当てられた貴重な休日であるというのに、時計の針は6時を指している。これはいつもの起床時間より少し遅い程度で早いことには変わりがなく、つまり何の慰めにもならない不満だらけの時間帯。早すぎる。きめ細かな刺繍を施したカーテンは外の色を光を透かしてさえいないのだからこれは明白な事実だ。今日こそ昼まで寝てのんびりなごやかに休日を過ごしたかったのに……というつつましくささやかなナルトの願いは、今日も今日とてサスケのせいで無惨に打ち砕かれたのだった。

「休みだからってお寝坊はいけないぞ?それとも休みの日くらい俺に起こされたいために寝ているのか」
「違います!あのですねサスケ様、いくら貴方が寛大で平等な素晴らしい心を持っておられたとしても使用人と食を共にするのは止めて頂きたいしせめて部屋に入るときはノックして下さい!そりゃあ私共は本来年中無休であるこのお仕事に毎週休みを頂いている身分だしこのような配慮をしてくださったうちは家ご当主様は厳しいながら大変出来た方で涙が出るほど嬉しいですよ?しかしこちとらただでさえハード極まりない仕事+サスケ様のお守りで大変なのに、折角配慮された貴重な休日まで貴方に毎度荒らされるのは真に困るのです!だからとにかく出ていっ…………いえもうお座りになられたのなら構いません少々お待ち下さい………うぅ」

なんやかんやで急遽サスケの隣部屋へお引っ越しとなったナルトだって、部屋をあてがわれて数分後は既に「まあこの部屋でも良いか」なんて腹をくくるくらいにまで落ち着いていたのだ。あの時は眠気で悲観的に考えていなかったのと生来から順応性が早かったのが今回幸だったようだ。
だけどそれは「サスケが毎度毎度侵入しないならば」という前提があって初めて意味をなす。
一日の仕事が終わった後を見計らったように部屋へ侵入しては何かと世話を焼いたり、また休日の朝は学校のあるサスケに無理矢理起こされ朝食や着替えの手伝いと見送りをねだられる。更に「ギリギリまで一緒にいたい」と車に乗せられたりするのも部屋を移ってから格段に増えてしまった。

「……まあ、メイド服を着ろとか一緒に風呂入れとか言われなくなっただけでも良しとするべきなのか……」
「ナルト、早く食べるぞ」
「うえ!?あ、はっはい申し訳ありません只今!」

とりあえず考えるのは後回しにして、サスケの要望により急いで洗面所に駆け込み服を脱ぐことにした。早く洗顔や着替えを済ませて朝食を食べなければ!


* * * *


手洗い洗顔着替えに、そして珍しくサスケが持ってきた食事達(いつもならナルトと同じ下級使用人が準備する手筈)の用意を済ませ、ようやく朝食になった。

「……今日はいつもと違うのですね、料理長の気分だったのでしょうか……」
「気に入らないか?」
「いえ、とんでもありません、俺和食が大好きですし」

これまた珍しい和食な朝食にほくほくしながらナルトはみそ汁をすする。相当ダシを使ったらしいそれに、流石上流家庭は違うとぼんやり思った。自分ならかつおぶしも煮干しもケチるし、勿体無いからみそ汁に入れっぱなしだ。
顔を上げるとサスケがいつも以上に嬉しそうに口元に笑みをたたえてだし巻きを箸で割っていた。心なしか頬が薄桃色に染まっている。

「……………うまいか?ナルト」
「えっ?あ、ええ、料理ですね?勿論です、とてもおいしい」
「そうか、」

良かった。
そう呟いて目を細めたサスケを真正面から見てしまい訳もなく顔を背けてしまったナルトだが、この一連の行動に疑問を抱き、またサスケごときに無意識に照れてしまったと嘆いたのも彼自身で。今ではナルトの方が頬は赤くなっているが、サスケはそれに気付かず焼魚の身を上品な箸使いでほぐしにかかっていた。

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リゼ