先日勤め先の主人の息子馬鹿サスケに貞操を奪われそうになった俺は、あろうことかそのサスケお坊っちゃまを蹴散らして一日帰って来なかった、らしい。
「らしい」というのも、当本人のナルトがサスケに対して使用人にあるまじき暴挙に出たという記憶がすっぽり抜けたまま友人宅に出向き無理矢理泊まっていたからであり、そのおかげか翌日に顔を真っ青にした友人から起こされた時ナルトはまるで我が物のように友人のベットに寝転び空のスコッチ瓶を抱いてぼんやりしていたし、前日の騒動も知らず陽気にも友人に酒を要求したりと傍若無人だった。
無論、顔色悪い友人に促され外を見ると世間は昼過ぎ、家の周りにはうちは家の車が囲んで野次馬が外でやんややんや騒ぎながら友人宅を眺めていたので寝起きの悪いナルトでも流石に目が覚め、ついでに昨日の騒動を思い出したのは記憶に新しい。

「あいつから逃げてきたみたいだな……可哀想に昨日の俺」
「もしかしてうちはの息子でも殺ってきたのかよお前……!」
「あり得るってばねぇ」
「おいおい冗談の趣味悪すぎだぞ!」

客観的な考えを口にしたナルトを友人がマジ泣きながら肩をゆらしてきたので、のんきに掘られなくて良かったと思っていたナルトも主人の息子へしでかした事の重大さに気づきサスケの部屋に連れ込まれた後の記憶のなさに寒気を覚えたのが、まあそれは杞憂に終わる。
なんのことはない。だって、友人と一緒に庭にまで事情を確かめに来たナルト達を迎えたのは、もしかしたらもしかしたかもという期待を一身に受けたうちは家御自宅在住高級車の中から出てきた人物はもしかしたらもしかしたかもしれなかったサスケ本人で、呆気にとられた俺に向かって走って抱きつく程にピンピンしていたのだから。

「ナルトォ!会いたかった!」
「うお、さ、さすけさま……よくぞご無事で」
「俺の体の心配をしてくれたのか?ああお前って奴は!」
「(俺が殺しちゃって)貴方ともう会えないかと……(殺人犯にならなくて)本当に良かったですってばよ!」
「っ馬鹿!お前を置いて死ぬわけねえだろウスラトンカチ!」
「サスケ様……!」

ひしっ、と強くなる腕の力に身をまかせるのは本来の自分じゃあり得ないことなのだが、相手が無事なのが分かった安堵で抱き合うのを許してしまった。あ、でも野次馬の方の視線が痛い。痛いぞ。

「ナルト……先日は俺が全面的に悪かった!まだ早かったよな、本当に悪い、お前が恥ずかしがり屋なのはリサーチ済みだったのにがっついちまった。もう無理に誘ったりしないから頼む、帰ってきてくれよ……」

そっと体を離して俺を見下ろすサスケの顔はいつにもなく苦しそうに歪んでいる。変態染みた行為を働いていた先日までのサスケとは違いすぎて、あまりにイケメンすぎる為か腹立たしいという感情を通り越して既に神々しい。初めてナルトの本気を身を持って体験して心底参っているようだった。そんな珍しく弱っているサスケに、これまた珍しく本心からくる笑顔をサスケへ向けてナルトは頷いた。
そもそもナルトはサスケの連日のストーカーまがい行為も勘違い故に突っ走りまくった残念な行動も重すぎる愛の強引なセールスも全部ひっくるめてうちは家にお仕えしているのだ。仕事の環境も使用人達もサスケ以外は文句のつけようがないほど良いものだし、給料だってサスケの迷惑を日々強いられているナルトへの謝礼金も含まれるため桁違いに良い。それに100年に一度と言われる大不況の中でこの素晴らしい厚待遇に背を向けるのはいかがなものだろう。両親は既に他界してコネクションゼロ、一流大学どころか二流三流大学へ通うだけの学力も金もない自分を高い賃金と信用ある安全を条件付きで雇うところなぞ此処以外なかなか見つかるまい。

「では俺はさっそく帰る支度をして後から参りますので、サスケ様は先に御自宅へ帰らますよう」
「俺と一緒に車に乗れ。そのまま飛び出して来たから荷物もないだろ?」
「サスケ様の車なんてそんな。俺は徒歩で結構です」
「だから照れるなって、何もしねーよ馬鹿」
「大変恐縮にも一言申し上げさせてもらいますが俺はこれっぽっちも照れておりません」

以前無理矢理乗せられた際に散々パワーハラスメントを受けたんだから警戒するに決まってんだろとは流石に言えない。

「……ですが、今回はお言葉に甘えて同行させていただきますね」
「……そうか、良かった」

まあ今回、サスケはかなり反省(?)しているようだし、俺もちょっぴりやり過ぎたかもしれないなあなんて思っているので、車にはありがたく乗せてもらうことにした。これがイタチ様なら心から丁重に断りを入れるけど、俺にぞっこんのサスケの言葉だし、そういう意味では遠慮が入らないから楽だ。

「おーいシカマル!今日は世話になったってばねーまた来るからそんときゃよろしくってばよ」
「……へえ、あいつシカマルっつうのか……。おいそこの、ナルトが世話になったのは礼を言うが、もしこいつに気があるなら太平洋の底で永久に暮らしてもらうかもしれねえことを頭に入れとけ」
「あの…俺の友人を脅さないでいただけますか」
「ウスラトンカチ。無自覚なのは可愛いけど男にはそれなりに注意しとかないと駄目だぞ?男は皆狼なんだからな」
「……(俺に危ないことしてたのはお前だろうによくもそんな言葉が吐けるってばねぇ……)……サスケ様にそのような注意をしていただける日がまさか来るとは思いもしませんでしたよ」
「それに、俺はお前が本当に心配なんだよ。嫁入り前なのに男の家に泊まったりして……やっぱりシカマルは太平洋に沈ませとくか」
「気持ちが変わりました、是非お暇させてください」
「ふ、冗談だ。行くぞナルト」

始終顔色が治らない友人を放ってナルトは半ば押し込まれるように車に乗り込み、サスケは野次馬に甘いマスクで早朝の騒動について簡単に謝罪するとその後に続く。
勿論ナルトの友人に対して牽制の眼差しも怠らない。野次馬に美しい容姿を最大限利用するため余すことなく晒し老若男女魅了させた後には、乗り込む際ナルトの友人の為だけにとっておきの冷たい視線を向ける。シカマルが震えて後退るのを絶対零度の瞳のまませせら笑うと、ドアを締めて車を走らせるよう運転手に促した。そうして後に残ったのは、先程のサスケの美しさにまさしく神の姿を見たなんて騒ぐ野次馬と悪寒で震える被害者一人だけである。

シカマルは今後の友人との付き合いを大きく見直すべきだ、と心に誓ったのだった。

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リゼ