「………天国ぅ?」
「いえす天国ぅ!」

素晴らしく快活な返事だが満面の笑顔でピースされても反応に困る。

「…嘘つくならもうちょいマシな嘘つけよ……笑えねえ」
「えっ…嘘じゃねえもん、俺ってば本当に天国出身だもんね!つかさっき俺飛んでたじゃん、あれが天使の力だぜ?」
「マジックショーの間違いだろ?騙されないぞ俺は」
「マジック…?うーん確かにマホウみたいだけど、邪悪な代物じゃなくて…………あ、それよりサスケ、これ見れば分かるって!天上学校の幸福運搬科および堕天使駆逐科、霊魂総浄科を専攻している、つまり全部の科目だけど…大天使うずまきナルト様。ほら!」


すすす、と差し出された紙は彼の所の学生証らしい。いかにもという風に天使うずまきナルトと書いてあるし、何よりこの学生証とやらの素材は良質で、滑らかに光を反射しまるで己が光っているようにも見える。天使の学生証ですよーと言われればそんな気がしないでもなくはない。
だが、生憎そんな紙切れで信用するほど俺はお人好しでもないし冗談に付き合うほど暇じゃないのが本音。それだけの情報で信じる方が異常である。
ため息ついでその学生証とやらを机に放り投げると、それが癇に障ったのか、ナルトはいよいよプリプリ怒り出した。

「…まだ、信じてないってばね?」
「こんな紙切れだけで信じるわけないだろうが!」
「なっ…紙切れじゃねえそれはれっきとした天使証だ!」
「アホ!俺だから良かったけど、他の人にそれ言ったら気味悪がられて家追い出されるか即警察に連絡されて事情聴取受けるぞ」
「え…うっそマジで?人間はなかなか疑り深いんだってばね…」
「これが普通の反応だ!」

そのぶっ飛んだ話を信じる方が余程変な人間なんだよウスラトンカチ。と言いたくなったのはきっと俺だけじゃないはず。大体天使証だと紙切れを渡されただけで(俺の場合彼が空中に浮く芸当を見ているけれど)「はいそうですか」と信じる人間なんて殆どいない。
…まあ、あれだな、言っちゃ何だがお前は可愛いぜ。俺が認めるくらいだ、結構良いレベルまでいってる。…だがな、お前がちょっとばかし姿形が可愛くて天使っぽくても俺を騙せると思ってたのか?だとしたら甘いな。甘い。考えが甘いぜ。どうして中々そうはいかねーんだよ世間はざまあみろばーか!
と、そんな俺の頭の中を知るよしもないナルトは、何処からか電子辞書みたいな機械を引っ張り出しボタンをぽちぽち打ちながらウンウン唸って調べ事をしている。

「あー…サスケに一番信じてもらえそうなやり方を探してるけど…力は出来るだけ使いたくないな。でも仕方ないってばねえ」
「……ちから?」
なんか嫌な予感がする。
「マホウみたいなもんだってばよ、宙に浮いたのも俺の力だったし。とにかくこれは最終手段だかんな!よおく見ててね!」
「は!?おい待て嫌な予感しかしねえっ……!」
「てえい!!」
「おわっ!?」

ぼふん。

ナルトが電子辞書で調べるのを止め検索決定ボタンを押した瞬間、周りには白い煙が視界を覆うように二人をつつんだ。突然の異常に慌てる俺とは対照的に、ナルトは何も言わない。
彼はその煙幕の中に消えた。しかしその代わり、彼がいたはずの場所には超絶セクシーな金髪女が裸でこれまたハイパーセクシーなポージングを………って、えええええ。

「どうだ参ったかサスケェ!」
「だ、だだだだ誰だお前…!」
「大天使うずまきナルト様だってばよ!へへっ、これで信じねえんならお前をかえるにしてやるぞ!そしたら嫌でも信じるだろ?」

そう言いながら此方へ近づいてくるセクシー金髪美女。頬の引っ掻き傷みたいなあざも、明るい黄色の髪も、勝気な青い目も、少年のナルトそのものだから、おそらく本当にナルトが天使の力?か何かで姿を変えたんだろうな。
いやそれより重大なのは彼女の格好。手は腰に当てているから身体が全然隠れていない。正確に言うと隠そうともしていない。
嫌な予感が的中した。
多分、いや確信を持って断言してやる。こいつ俺の反応を見てからかってんだ。マジあり得ねえ。
現にナルトの声色はものすごく楽しそうにはずんでいるし、惜しげもなく裸体を披露するあたりが完璧嫌がらせだ。他にもっと良い方法を考えつかなかったのか?ていうかお前本当に天使なのか?天使じゃねーよ絶対悪魔の間違いだろ死ねばいいのに。

「…わ、分かりました。信じるから、信じてやるから身体を隠せウスラトンカチ!」
「え、信じてくれんの?やったぁサスケ大好き!お前やっぱり良い奴だってばよ!」
「ギャアアア抱きつくなお前っ胸当たってるからっ……おい止めろっつってんだろ…!うあああ」

セクシーバージョンうずまきナルトだいてんしサマは俺に抱きついたまま離れず「サスケしか頼る奴がいない」「住む場所ないから住まわせて」「お願いだってばよお」という天使にあるまじき魔性の女のような言葉を吐き続け、許可しないとかえるにするぜと言わんばかりに天使御用達電子辞書をちらつかせ続けたのである。これは立派な脅しだ。
そうして優しく可哀想な薄幸少年こと俺は(早く自分から離れて欲しいのと報復のかえるが怖い一心で)ついつい承諾の返事をしてしまったのだった。



「ありがとうサスケ!そして宜しく!」
「……あ、ああ…宜しく…」
「サスケ、俺ってば、サスケの為にお仕事頑張るからね!」
「…はあ、……いや、意味分からん何で俺の為ぶごあ」

少年姿に戻ったナルトにもう一度愛のハグという名の殺人タックルを受けたが俺のライフポイントは最早底をついていて抵抗する力はなくため息をつくだけに終わった。もうどうにでもなれ。

「…え?何々?そんな顔しかめてため息ついて、抱きつかれて照れてんの?それともお金の心配してんの?食費の心配?なるほど貧乏学生なんだっけサスケ…プププ、悲しい男ってばねえーそんな風だと女の子にモテないってばよ色男がもったいない!あ、ちなみに金の心配はしなくても大丈夫、天使の崇高な素晴らしき力で全ては解決!」
「…そう…なら、良いんだが……あと思ったけどナルト…お前今夜何処で寝るんだ」
「今日のところはひとまずサスケのベッドで仲良く寝るってばよ!いやっふーサスケのベッドこれもふもふ気持ちいい!」

俺のベッドではしゃぐナルトを見て、俺はもはや何もリアクションが出来ない。驚くべき順応性と強く否定出来ない曖昧さは日本人特有の性質である。
だから、今すぐ出ていけこの似非天使野郎ファッキン!と叫べなかったのは彼の行動が可愛いと思えてしまったからとか少なからず彼との生活を楽しみにしているとかそんなんじゃない。





 

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リゼ