「サスケサスケ、お誕生日おめでと!」

寝苦しさにうっすら目を開けると、そこにはチームメイトのうずまきナルトこと自分の恋人がまんまるなビー玉おめめでこれでもかというほどに顔を覗きこんでいて。
寝ぼけ半分だったおれはその事実に気づくと心底吃驚した。

「…っうわああ゙!」
「うわ、落ち着けサスッ…」

驚きすぎて何も考えずに起き上がったので、その瞬間おれのおでこと恋人のおでこがこんにちはさよーならとご挨拶。しかも勢い良すぎて両方のおでこから火花が飛んだ。
なんだかもう、地味に痛くて、展開がお約束すぎるのにも泣けてきた。額の痛みと脳みそのグワングワンと鳴る音が半端なく不快で、じんわり涙も出る始末。…こ、このウスラトンカチな石頭め…ウスラトンカチだからこそ許してやるから良いものを…!…いいや大事なのはこいつの石頭を許すとかもはやそんなレベルじゃあなかったな…。今大事にすべき事柄はただ一つ。なぜ、夜遅くに、ナルトが、おれのベッドの上に、しかもおれにまたがって、誕生日おめでとうなんぞぬかしているのか。この状況は世間的にかなりありえないというか絶対おかしいものに決まってるし、おれの反応は普通のはず。なのに、その絶対おかしい状況をつくった本人はまるで普通だから、なんか腹立たしい。

「うう、痛かった……でもやっと起きてくれたな」

良かったあ、とかわいらしいおでこをさすりながら、これまたかわいらしくにっこり笑うナルト(こんな非日常でもサスケのナルト美化フィルターは作動する)。まるですべてをうやむやに出来そうな笑顔。率直に言って超かわいい。…おいそこ、フィルターオンだからとかじゃないぞ。こいつのかわいさは天然記念物なんだ。
我が恋人のかわゆさはサスケのポーカーフェイスをたやすく溶解するほどにかわいいのだ。しかもこのかわゆさは純粋無垢な性質であり計算されたかわゆさではないためますますかわいらしい。思わず不可抗力でにへらーと口元をゆるめ微笑みかえしそうになるけれど、寸前のところでなんとかこらえた。
危なかった。ポーカーフェイスが聞いてあきれる。

「…お前、なんでこんな真夜中に、不法侵入で逮捕されるぞ」
「プレゼントだってばよ!」
「?主語を抜かすなウスラトンカチ」
「今夜は俺、お誕生日祝いのおわびにきたんだってばよー」
「…ああ」

そういうことですか。

そういえば、こないだの夏真っ盛りな蒸し暑い木曜日はたしかにおれの誕生日だった、気がする(サクラからプレゼントを渡されて初めて自分の誕生日を思い出した、自覚のなさすぎた誕生日でもあった)。

「おれってばサスケの誕生日全然知らなくて、昨日サクラちゃんにスッゲー怒られたんだ…ごめんな。おれはサスケの恋人なのにさあ」
「…いや、お前が気にすることじゃねえよ。だって自分が言ってなかったし」
「ううん!これは気にすることだってばよ!」

うるうるくりりんどんぐり目がまっすぐ射抜いて、思わず「うっ」と息詰まる、おれ。
(か、かわいい!)
少年漫画最萌えトーナメントとかあったらダントツで優勝するんじゃねえのってくらいにかわいい。そもそも誕生日を教えてなかった(その上忘れていた)おれが悪いのに健気に謝るとか、もう滅茶苦茶にかわいい。なんて出来た子なんだろう。

「だから、だからものすっごく申し訳なくて、真夜中お前ん家に侵入させてもらった。許せサスケ、全ては愛のためだってばよ!」
「ゆ、許してやるよ。たとえ不法侵入でもお前の愛なら全て許せる自信がついたぜ」
「ならさっそく決行する」
「…決行?」
「決行するってばよ」
「プレゼント渡しに来たんだろう、一体なにをする気なん……!?っわ、てめっ!」

てっきりカップラーメンやら最新のクナイやら高級起爆札やら(おれも彼も修行バカだからだ)をプレゼントするのかと思いきや、ナルトは横になっているサスケにぎゅむうっと抱きついてきたのだ。ひっぺがそうにも体勢的に不利だし、ナルトからはシャンプーの香りなのか、はちみつみたいないい匂いがするし、ガキみたいに「サスケー」とか言って頬擦りしてくるし、う、うわあナルトのほっぺたふにふにしててやわらかいかわいいキスして抱きしめて襲いてえぇ…いや駄目だレ×プは人として最低な行為だぞだから耐えろおれぇぇぇ!
照れと羞恥でパニックになる自分が、我ながら青くてとことん嫌になるけれど、しかしこれは当たり前の反応だと思う。だって、いつものナルトはおれがキスしようとするだけで恥ずかしがる天性のシャイだ。

「ナルト離れろ、おいっ、あと首をなめんなぁ!」
「え、サスケ、もしかして嫌なの、こーゆーの」
「嫌っていうか、嫌じゃないけど、むしろ嬉し…!…じゃなくて、お前分かっててやってんのか」
「ん?分かってやってるよ、おれ。作戦その一、上級技術オソイウケ。サスケってスケベだし、こーゆーのがずっとやりたかったらしいとサクラちゃんから聞いたし」
「サクラが、だと?」
この際おれがスケベだという嫌な誤解はスルーしてやっておこう。
「恥ずかしがってないで、サスケの気持ちに答えてやれだって。勿論、誕生日祝い損なった詫びも含めて」

だから気持ちに答えるべくハグ攻撃だってばよと無邪気そのもので微笑むナルト。やっぱりかわいい。
一方おれはと言えば「サクラグッジョブ!」とか「こいつ本当に分かってやってんのか?」とか、そんな思いがぐるぐる渦巻いていた。日頃どんなに積極的なアプローチをしていてもなかなか実ることがなかったのが、今や本人が「サスケの好きにしてくれってばよ(はぁと)」とまで言ってくれている(実際そこまで言ってないけど)現状に、本気でどういう対応をとれば良いのか分からない。もし全然意味分からずにサクラにそそのかされたのなら、やっぱり我慢するべきだろうし。でも、据え膳食わぬは男の恥とも言うし…。

「…ナルト、お前、本当にいいんだな?」
「男に二言はない!」

俺の変な心配をよそに、きっぱりはっきり発言するナルト。そんなナルトを見て、おれはある決心をした。
据え膳食わぬは男の恥だぞ、うちはサスケ!我慢するな、大胆になれ、腹をくくれ。男ならやるときはガツンとやっちまうのだ。

「…分かった。お前の気持ちを汲んで勝手にする。あと最初に言っとくが、後悔したりするなよ」
「んなこと最初から把握してるってばよ!」

ナルトは真っ赤になった顔をサスケに近づけて、おでこにちゅっと軽いキスをした。いつもはガードが固すぎるんじゃないの?ってくらいに固いナルトが、今日はものすごい誘ってる。まるで別人。もしかしてマジで別人なのかとも思ったけど、おれがナルトを間違うはずもなく、そしてお誘いムードなこのナルトはまごうことなく恋人のナルトであり。
そんなおれが言えるのはサクラが久しぶりに良い仕事をしたことと、ナルトがおれのために頑張ってることと、おいしい展開すぎるということくらいで…。

「サスケ、誕生日おめでとう」

おれがナルトを見つめていると、ナルトはもう一度祝福の言葉をくれた。顔を近づけているから、普段おがむことも出来ない華奢な首や鎖骨まで見えて、ドキドキする。
なんとなく雰囲気でナルトの身体にそっと手を這わせると、身体は必要以上にビクリとふるえた。なんて初々しい反応。びっくりするほどかわいいので、おれはいよいよ我慢の限界をいく。
ピンクのうるんだ唇に、かみつくようにキスを贈った。

「……ナルト、」

歯止めが効かなくなったらどうしようかとちらっと頭に浮かんだけれど、今日は日曜日だし、まあ大丈夫だと、思う。

とにかく結論。
誕生日ってすばらしい。














 
リゼ