ところ変わって公園近くの歩道には、若い男女二人が歩いていた。歩いていたという表記は語弊かもしれない。少年とも言えそうな金髪の青年は、力持ちであろう剛腕な女性に引きずられていたのだから。

「ほら!いたわよサスケ君!さあナルト早く行って謝ってきなさぁあい!」
「ちょちょちょちょちょっと待ってってばサクラちゃん!止めて引っ張らないでまだ心の準備がぁあ!」
「うるさいわぁ!男ならシャキッとせんか大バカナルトォオ!」
「さささサクラちゃん!男なら〜とか女なら〜は男女差別だってばよ!」
「知るかこの根性無し童貞!あんたそれでもちんこときんたまついてんの!?」
「ぎゃああサクラちゃんせめてピー音かぶせてぇえ!あと童貞じゃない!」

半泣きで公園とは逆方向に逃げようとするナルトに、それを引きずっていた女性春野サクラは心底呆れて引いていた手を離した。

「……あんたねぇ。そんなんだったらいつまでもサスケ君とお話出来ないわよ」
「だだだだって、サスケ怖い…あいつめちゃくちゃ俺を睨んでるんだもん、メデュウサの子孫じゃないの!?」
「……うーん……」

確かにねぇ、とサクラは眉をよせた。
サスケはナルトに逃げられたショックでところかまわず殺気を放っているのだ。その殺気にあてられて怖がるナルトは逃げて、逃げられたサスケはますます荒んでゆく。まあつまるところめちゃくちゃ分かりやすい悪循環である。


「……でも、このままじゃいけないことくらい分かるよね?」
「う、うん……」

サクラの言葉にうつ向いて返事をするナルト。そんなナルトに同情して、サクラは優しくなだめるように話を続けた。

「だったらナルト、ごめんくらい言わなきゃ、ね?きっと大丈夫よ、心を込めて言えばサスケ君も分かってくれるわ!ほら頑張って!私が仲介してあげるから」
「うん、ありがとう。オレ頑張るよサクラちゃん!」

「……その調子よナルト!よっしゃあ早速サスケ君のところに行ってきなさぁぁぁい!」
「うわぁ、ちょサクラちゃん待っ……うぎゃあああ!」

サクラはシャンナロー!と一声叫ぶやいなや、ナルトの腕をがっしり掴み公園の方へぶん投げる。砲丸投げの玉のようにナルトは宙を飛び、見事とは言い難い体勢でサスケとサイのいる公園に着地した。
しかも頭から。


受け身の体勢もままならず、ベシャアアと公園へ滑りこんできたナルトは痛みに悶えながらもなんとか立ち上がった。真正面のかなたには、こちらを睨んでいるサスケと、何やらガッツポーズをしているサイがいる。

(こ、怖いってばよぅ!)

既に逃げ腰なナルトは早くここから逃げ出したい、消え去りたいと思っていた。が、いやでもそれじゃあダメだ!と思い直した。サクラの激励の言葉を思い出し、今にも反対方向へ走り出そうと動く足を寸前でこらえ、ガン見してくる(本当はただ驚いて見つめているだけ)サスケに怯えながらも、ナルトは謝るためにはじめの一歩を踏み出す。

「サ、サスケ、えっとその、今まで無視して、ご」

ごめん。というはずだったのだが。続くはずの最後の一言はサイの声に邪魔され、ナルトの勇気と共に敢えなく散っていった。

「サスケ君!」

サスケと話をしていた途中、いきなり空から出現した生命体がその話に深くかかわる人物だったので、これを見たサイは二人の運命的な何かを感じたらしい。彼はサスケの方を向くと叫んだ。

「サスケ君チャンスだよ、ナルトが飛んで君の所にやってきた!さあ全力で走ってナルトに想いをぶつけるんだ」
「ちょ、ええ、サイお前サスケに何吹き込んだんだ!ていうか何の想いをぶつけさせるつもり……おいおい千鳥ぶつけるとか言うなよサスケ、オレってば今日は…お前にあやま」
「ほら早く、サスケ君行くんだ!」
「ゴルァサイ空気読めえ!お前せっかく人が謝ろうとしているときに」
「サスケ君!」
「ああサイ恩にきるぜ!……よっしゃあナルトォォォォオ!」
「うわサスケ!ぎ、ぎゃぁあいやぁぁああ殺されるぅぅぅぅ!!」

通常の黒い瞳を写輪眼に変えて猛突進してくるサスケに、ナルトも命を削る思いで逃げ出した。





「サスケ君、頑張れ…」

ベンチに座ったまま、サイはこれまでにないほどのすがすがしい笑顔で公園から出て行く二人を見送っていた。そうしてキラキラとオーラを放ちながら公園の入口を眺めていると、ほどなくしてサクラが公園に入ってきた。その彼女の表情は、何か思い詰めた…というよりものすごい形相である。流石のサイも彼女に少し驚き恐怖した。

「ゴルァァァサイお前何しとんじゃぁぁあ!」

躊躇なくサイに向かって突撃し、ワレナメとんのかぁぁぁと襟元をつかんで揺する彼女はいつになく凶暴で、サイは揺すられながら(脳みそがシェイクされる!)とのんきに考える。

「なんでサスケ君がナルト追いかけてんのよ!」
「僕がアドバイスしたんだよ、走って捕まえて抱きしめろって」
「あんた、人にアドバイス出来るくらいの経験もしてないくせによくそんなこと言えたわね…!」

眉をつり上げて今にも睨み殺しそうなサクラをのんびりと眺めながら、サイはふと心配になってきた。勿論サスケのことだ。

(そういえば、サスケ君…)


「大丈夫かなぁ?」
「大丈夫なわけないでしょうが!」
「いや、さっき冗談で卵プレイとか押し倒せとか言ったから、サスケ君頭スパークして口走らないかなぁって」
「そ、それは本当に大丈夫じゃないわよ!?ヤバいサスケ君混乱したらやりかねない……」

サイの襟をつかんでいた手を離し、もう駄目だとうなだれるサクラは多分この登場人物の中で一番の苦労人である。
しかし彼女の苦悩を知るよしもないサイは「僕は今から卵買ってくるからね」とサクラに伝えると晴れやかな面つきで公園を後にしたのだった。



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リゼ