『Replay』一 episode2一1ページ目


ローズの言った『改造』は想像以上の苦痛を伴った。 鉄製の台の上に実験体のように紐で両手両足を括り付けられ、目隠しと口に布を挟んだまま叫び倒していた。

「んぐううぅううう!! ふ、ふっ、ふぅううううう!!!」

広々とした空間に私の声が反響していた。 胃の中をかき混ぜられ、何かが飛び散る音が聞こえてきた。 ローズは『後々細胞が再生され、痛みが引いてきます。それまでの我慢しなさい』と言っていた。

それはいつなんだ?いつになったら、この痛みは終わるんだ?
それだけしか今の私にはなかった。 先程から頬を何かが伝っている感覚がする。 涙だ。 涙が滝のように溢れて止まらなかった。 誰でもいい。 誰でもいいからこの苦痛を止めてほしい。
けれど、ローズは何も言わなかった。 私が何度も『助けて』と叫んでも何もしなかった。 どうして?何故? 私を蘇生したのは貴方なのに…何故助けてくれない?

「ふぐっ…ううう…うっ…うっ…」
(いっそのこと…殺してほしい…)

こんな苦痛を永遠に味わうぐらいならいっその事息の根を止めてほしかった。 ああ…だが、死を望むことは許されないことなのだろう。

(これは…罰なんだ……今まで非人道的なことをしてきた…私と…一族への罰だ…)

幼い頃から両親の研究を見てきた。幼いながらも神玉の研究が《いけない事》だということは分かっていた。 歳を重ねるにうち…一族の《神玉》への研究心は上がる一方だった。 シマダ一族と結託し、オーバーウォッチと戦いを続けてきた。 彼らが正義で我々は悪だった。

「ふっ…うう…うっく…」
(それでも…預言の神が示してくださった道を諦めることは…どうしても…出来なかったんだ…!)

目を閉じて、自分に強く言い聞かせながらも泣いていると「ようやく効いてきたようですね」とローズの声が聞こえた。

「ふっ…ふ…?」
「細胞が再生され、痛みが緩和されてきたのです」
「……っ…」

確かに言われてみれば…先程から続いていた強烈な痛みは《感じなくなっていた》。それに驚いた私が何も言わずにいると「布を取ってあげましょう」とローズが言うと言葉通り私の目と口に挟まれていた布を取ってくれた。 唐突に光が入り込んできたので私はまた両目を瞑った。

「本当…光に弱い人ですね。 可哀想に」
「…………」

ローズの言葉に私は顔を反らした。 なんとでも言うがいいさ。 幼い頃から先天性の病で目が見えなくなった私はオムニックの目に頼らなければ生きていけないことは分かっていた。そんな自分を昔から嫌っていたのも事実だった。

「さて…細胞再生も始まったので、次の段階に移りますよ」
「…え…?」

ローズの言葉に私は唖然とした。 続けて彼女は言った。

「ここからが本番です。 次はあなたの体の中に金属帯とワタクシの下僕達を植え込みます」
「……嫌だ…」
「はい?」

一一もう我慢できなかった。

「もう嫌だ!! これ以上の苦痛は堪えられないっ!!」
「………………」

拒絶を示した私に、ローズの目は細められた。 オムニックであっても分かる。 明らかに…彼女は怒っているのだと。

「…ユリアお嬢様を苦しめただけでなく…ワタクシの改造手術まで拒むとは…呆れを通り越して…尊敬致しますわ」
「ひっ!?」

ローズは私の片手を勢いよく掴むと、力を入れ始めた。 手首に爪のような物が突き刺さるとすぐに声を上げた。

「や、やめてくれ…! 痛いのも…苦しいのも…もう、嫌なんだよ!!」
「黙りなさいっ!!」
「一一一」

広い空間に乾いた音が響いた。頬を叩かれたと分かったのは頬が熱を持ち、ひりひりと痛み始めてからだった。

「何度も言ったはずです。 貴方に拒否権などない! 」
「………っ」
「はぁ…本当は…言うつもりはなかったのですが…あえて言わせて頂きます。

貴方に行った《機械と細胞再生》の手術は…全て…ユリアお嬢様の研究だったのですよ」

「そ、そんな…!?」

ローズの言葉に私は酷く動揺していた。 あの穏やかで優しいアカリがこんな残酷なことを考えていたとは思えなかったからだ。


「ありえない…! アカリが…こんな事を考えるはずがないっ!!」
「ワタクシは嘘はつきません。 お嬢様から『嘘をつくはいけないことなんだよ』と教えてもらいましたからねぇ…!」
「くっ…!」


歯ぎしりしながらも、私は両手両足の紐を取ろうともがき始めた。 けれど、頑丈な作りなのか…とても硬い。 人の力だけでは解けない。


「その紐は鉄製で造られたものです。 あなたの力では解けませんよ?」
「……っ…」

「言葉に気をつけなさい。 アサノ ミゾレ。あなたがワタクシを拒むという選択肢は…どこにもありませんわよ?」
「…………」


最早反論する事が出来なかった。彼女の言葉で分かった。今受けている仕打ちは…アカリにしたことへの罰なのだと。 ローズを拒絶することはアカリを拒絶することになる。 ローズの言葉に意義を唱えるということはアカリに対する意義を唱えることなのだと。


「……ま…す…」
「ン?なんとおっしゃいました?」


一一目から滝のように涙を零しながら…私は言った。


「何でも…言うことを聞きます……《ローズ様》」

「よろしい」


この瞬間一私の心はローズ様に支配されてしまった。
私の言葉に…ローズ様は満足そうに頷いたのであった。


END
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