第7話一1ページ目
『鬼狩』が解散してから、どれ程の時が経っただろうか? 《RTE》の効果が切れ始めて、数ヶ月…今は冬の季節となり、毎日肌寒い日が続いていた。


「ただいま」

時計を見れば、夜の0時を回っていた。 研究に没頭すると帰ってくるのが遅くなってしまうが、仕方なかった。 美花からの返答はなかったので、恐らく寝ているのだろう。
地下研究所を出てからは、私は千歳様が紹介して下さった科学研究所の研究員となった。 《鬼狩》のことは一切知らない者達との研究など苦痛しかなかったが仕方なかった。 給料は地下研究所といた頃と変わらないし、美花の療育費や学費を払うには十分だったからだ。 マンションの一室を借りて美花と暮らしていた。 以前住んでいたのは豪邸と呼ぶに相応しい家だったので美花は不満を持つかと思ったが『叔父さんと一緒ならどこでも大丈夫だよ』と笑顔で言ってくれた。
美花が笑顔で素直で優しい子に育ってくれたのは…兄さん達の教育が良かったのだろう。


「!」


荷物を部屋に起き、コンビニで買ってきたカップラーメンを食べようと台所に行くと、テーブルの上にラップに敷かれた物が置いてあったことに気付いた。 カップラーメンを置き、ラップの敷いてある食べ物を見ると…私の好物であるロールキャベツが3個あった。 その下にメモが挟んであったので読んでみた。


《叔父さんへ。 お仕事お疲れ様でした。
帰りが遅くなると聞いたので、叔父さんの好きなロールキャベツに初挑戦してみました! 形が崩れてたら、ごめんなさい!
温めて食べて下さいね。 冷蔵庫にお味噌汁とご飯もありますので温めて食べて下さいね。
先に寝ておきます。 明日の朝にロールキャベツが美味しかったか聞かせてくださいね! By美花より》


「………っ」


美花からの手紙を見て、目にこみあげてきたものがあった。 目尻を抑えて堪えると、私はロールキャベツと冷蔵庫に入っていた味噌汁とご飯をレンジで温めた。 温めている間にカップラーメンは食器棚の隣にある棚に入れることにした。 また何かあった時に食べればいいと思っていたのだ。 適当な時間になって、レンジを止めるとご飯もお味噌汁もロールキャベツも十分に温めてあったので、取り出すと椅子に座り食べる事にした。


「………」
(料理の腕上げたな…美花…)


小さな頃から美花は義姉の手伝いをしており、料理を作るのは得意としていた。 私は家事が出来なかったので美花が手調理が出来ると聞いて安心したのだ。 大きくなるにつれて料理の腕も上がっていく美花の将来を楽しみにしながら、あっという間に完食してしまった。


「ごちそうさまでした」


1人で『ごちそうさま』と言うことも慣れてしまった。 些細なことだったが、やはり…寂しいことには変わりなかった。 食器を片付けるために水道に行き、後片付けを終えて一息ついた時だった。
大きく心臓が高鳴ると腹部で《あの方の半身》が蠢いた。


「かっ…あ…うぅ…!!」


これは《呼び出し》だ…!! すぐに準備せねば!!
腹部を2回撫で《了解の意》を知らせると私は物音を立てぬように《RTE》を閉まっている部屋へと向かうと、引き出しを開け、奥に隠してあった《RTE》を取り出した。


(急げ急げ急げ!!)


《RTE》を抱きしめながら、早足で部屋を出ようとした、が。 ふと足を止め振り返った。


(美花…)


一一私は直感的に感じたのだ。 これが…《美花と触れ合える最後の時》ではないのかと。 《あの方》を待たせる訳にはいかなかったが、最後に人目だけでいいから…美花の顔を見たいと思ってしまった。 腹部を撫で、私の言葉を伝えると《あの方》から許可が降りた。 礼を言うと、私は《RTE》を机の上に置くと美花の部屋へと向かった。


「……美花…」


扉を静かに開けると物音を立てないように美花の元へと向かった。 可愛い姪は寝息を立ててベッドでよく眠っていた。 私に妻子はいない。 だが、兄さんと義姉さんが残しくれた美花がいるから…寂しくはなかった。


「美花…私の美花…! 愛しているよ…!」


絞り出すように小さな声で愛の言葉を言うと、額を布団に軽く擦り寄せた。 手を置けば起きてしまう可能性があったからだ。


「さようなら…美花。 ロールキャベツ、美味しかったよ」


私がいなくなれば良いのだ。 全ての始まりは私の未熟さによるものなのだ。 美花は何も知らない。 《鬼狩》作戦実行中に私がやっていたことも。 非道な実験のことも。 秋人君達のことを弄んでいたことも。 何も知らないのだ。
それでいい。 美花は知らなくて良いのだ。 全ての行いは《私の責任》であり《美花のため》でもあったのだから。


「……っ」
(お待たせして…申し訳ありません…! 今すぐ参ります!)


再び腹部が大きく唸った。 《あの方》が早く来いと催促してきたのだ。 私は何度も頷くと美花の部屋をあとにすると《RTE》を抱きしめながら、部屋を出た。 《あの方》をお呼びするために、私はエレベーターで屋上へと向かったのである。
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