第1話一1ページ目



「あんたも一緒に来てもらうぞ…闇月。 いや…《竜舞先生》」
「………」
「え…!? 竜舞先生…!?」

一一秋人は、闇月の前に行くとフードを取り、ガスマスクを外した。 そこには虚ろな目をした竜舞が秋人と祈里を見つめていたのであった。
祈里は信じられないようで、秋人と竜舞を交互に見つめていることしか出来なかった。


「…いつから俺だと気付いていた?」
「羽星海兄ちゃんの記憶を見た時から疑問に思っていた。 兄さん達に厳しくしなければならない立場であるはずなのに…1人だけ褒めることは差別に繋がると思ったんだ
確信へと変わったのは……幼い俺を後ろから抑えた時だ。 あんたが泣いていることに気付いたんだ」
「!!」


秋人の言葉に竜舞は大きく目を見開いた。 竜舞には見覚えがあったからだ。 確かに自分はあの時…泣いていた。 いや、泣いてしまった。
視線をさ迷わせ、顔を下に向ける。 もう…潮時なのだろうか? 全て…話してしまってもいいのだろうか?
だが…今は、自分の過去を話すよりも気になっていることがある。


「…五十嵐。 頼みがある」
「?」
「夜刀神様の祟りで連れ去られた遠野博士と遊糸さんを……助けに行ってほしいんだ」
「!」
「えっ!? 父様も連れて行かれたんですか!?」
「ああ…そうだ。 俺には分かる。 さっきも言っただろ? 俺達には…《時間がない》んだ」
「…………」
「どうしよう…! アキ君…!」


竜舞の言葉に秋人は口元を抑え、考え込んでいた。 祈里は秋人の服を掴み、不安げに言っている姿を見ることしか出来ない竜舞。 3人の間に沈黙の間が訪れたが、沈黙を破ったのは瞬間移動で現れた優璃だった。


「竜舞先生が言ってることは本当だよ。 秋人君」
「優璃兄ちゃん…!」
「アキ君…! 父様と…遠野博士を助けてあげて…!」
「……祈里…」


信頼できる優璃からの言葉に、秋人は迷いを捨てた。 一つ頷くと、祈里の頭を撫でながら言った。

「安心しろ。 祈里。 必ず…遠野と遊糸は助けてみせる」
「ありがとう…! アキ君…! 気をつけてね」
「ああ。 優璃兄ちゃん…!行こう!」
「了解!」

秋人と祈里はお互いに頷き合った。 2人の様子を微笑ましく見ていた優璃は突然声をかけられたことに驚きつつも、しっかりと頷いた。 秋人と優璃が夜刀神の所に向かったのを見送った祈里は、竜舞に振り向くと拘束しているロープを赤い短刀を使って解いた。


「!」
「…アキ君には内緒にしてくださいね」

祈里の行為に、驚いた竜舞は見つめることしか出来なかった。 自由になった手を見つめながら、竜舞はぽつりと言った。


「何故…俺を解放した?」
「竜舞先生は…悪い人じゃないからです」
「そんなことは一一」


「あなたの《過去》を私は知っています」
「!!」


ふと祈里を見ると一一彼女の両目は赤い光を灯していた。 突然祈里の雰囲気が変わったことに竜舞は震え、怯えていると…祈里の目から赤い光が消えた。


「アキ君には…聞かせたくなかったんです。 きっと…アキ君は泣いてしまうと思うので…」
「………」
「竜舞先生。 これからを生きていく為にも…教えて下さい。

あの日のあなたが思ったことを全てを…わたしに教えてほしいんです」
「……分かった。 お前には…話すことにするよ」


竜舞は諦めたように小さく頷くとぽつりぽつりと話し始めた。
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