あのときからずっと



好きだった。







さあっ、と桜の木が揺れた。
何枚もの花びらが散っていく。
その一枚が目に入りそうになって、沖田は片目を瞑った。

「…さくら」

手を差し伸べれば、ひらりと花弁が手に乗る。
それとなしにすぐ手を下ろすと、がちゃりと刀の柄に当たって音がでた。
いつからだ、と記憶を遡る。
いつから、こんなものを振り回すようになったんだっけ。
――――真選組に入ってからだ。
いつから、剣術を覚えようなんて思ったんだっけ。
――――近藤さんに出会ってからだ。
いつから、


いつから、あの人に惚れたんだっけ?






答えは、出なかった。
思い出せない。
この感情に気づいたのがいつだったかなんて。
伝えようとしたけれど、未だに伝えられていない感情。
いつの間にか諦めがついていて、ただアンタを護れればそれでいいなんて可笑しなプライドが出来ていた。
あの男が憎い。
姉のことに関しても、あの人に関しても。
だけど、

『その大切なもんにアイツも入っちまってんだろ?』

そうだ。
旦那の言うとおりだった。
憎いあの男も、『大切なもの』と化していた。
だから、身を引いた。
近藤さんはあの男ばかり見ているから。
このままではあの男を消し去りたくなってしまいそうだったから。
何より、あの男が消えたら泣くのは近藤さんだ。
近藤さんは、泣かせたくない。


だから、諦めたはずだったのに。


「どしたー総悟」

「…近藤さん」

「楽しくないか?花見」

「いや、楽しいでさァ。土方の野郎がさっさと酒で潰れてくれたお陰で」

「もーっ、そういう楽しみ方するんじゃありませんっ」

めっ、と近藤さんに頭を叩かれる。
真選組のメンバーでのお花見。
去年は邪魔が入りやがったが今年はやつらの姿が見当たらない。
土方が早くも泥酔しぶっ倒れており、その周りでは原田や山崎、その他の隊士が酒を酌み交わしながら楽しそうになにやら話している。

「…近藤さんは混ざらなくていいんですかィ」

「総悟が独りで寂しそうだったから来たんだけど」

「別にそんなことありやせんよ」

どく、と心臓が脈打つ。
諦めたはずの感情がまた溢れてくる。
ああまったく、俺ってやつは。

「総悟の嘘つきー総悟のことならなんでも分かるんだからなっ!」

まあ、アンタもアンタだ。
そうやって俺の心を掻き乱す。
右隣に、温もりを感じる。
昔は、俺が独り占めしてきた温もり。
そっと、もたれかかる。

「総悟?」

「…寂しいんで、こうしててもいいですかィ」

「おう、もちろん!」

それなりに酔っている近藤さんは、快く引き受けた。
あったかい。
目の前に、ひらひらと何枚もの桜の花びらが落ちてくる。
そういえば、
あの日も、たくさんの桜が舞っていた。
俯いていた俺が顔を上げたとき、アンタはでけえ桜の木を背景に笑っていた。
そう、あのとき――

「そういえば」

「?」

「俺と総悟が出会ったときも桜がたくさん舞ってたなあ」



同じことを、考えていた。
それだけで嬉しくて。

「こうやってさあ」

俺の頭に何かが乗る。
近藤さんの大きな手。

「総悟の頭を撫でてやったよな」

なでりなでり、と俺の頭を撫でる。
どこかこそばゆくて、でも優しくて嬉しくて。
あのときのことが鮮明に思い出されていく。

ああ、

あのときからか。

あのときからずっと、

好きだったんだ。





「総悟?」

「ふわあ、眠くなってきやした」

「まあ、子供は暇だからなー」

近藤さんが苦笑いする。
俺はそれを見て微笑む。
悪ィや土方さん、

やっぱり諦めきれねェ。

俺がずっと気持ちを我慢していたのを知ってたのに、アンタは近藤さんと何も進展しなかった。
俺は十分我慢しやしたよ?
だからもう、我慢しなくてもいいですよねィ?
アンタが悪いんだ土方さん、
アンタがさっさと近藤さんを手に入れときゃよかったのに。
アンタのせいで俺は諦めがつかなくなった。
これぐらい、許してくれやすよねィ?

「近藤さん」

「ん?どうした総悟」

近藤さんがこちらを向く。
相変わらず無防備な人だ。
俺はその無防備な唇に口づけた。

「――――え?」

唇を離すと、近藤さんの顔に一気にに朱が差した。
くすり、と笑う。

「近藤さん、」







あのときからずっと、





好きでした。












***

沖近。

初めは、結局沖田が諦めてバッドエンド、でしたがやはりハッピーエンド(…なのか?)がいいですね!←
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