生まれた理由



夜兎は、俺は、戦うために生まれた。


はずだった。







「ねえ阿伏兎」

「……」

「ねえってば」

「…なんですか」

阿伏兎がものぐさそうに振り向くと、にこりと笑った神威が立っていた。
再び机に向かい、書類処理を続ける。

「あっ無視しないでよ」

もう、と神威が阿伏兎の頬を後ろから摘む。

「やめろこのすっとこどっこい」

「だって阿伏兎がいけないんだよ」

「?」

神威がくすくすと笑う。

「今日は何の日でしょーか?」

「…アンタの誕生日だろ」

「ご名答〜」

笑顔を絶やさないまま阿伏兎に抱きつく。
阿伏兎がなんの反応も示さないことを確認すると、その目をすっと細く開いた。
ぞくり、と阿伏兎の背中に悪寒が走る。

「で…?プレゼントは?」

阿伏兎は観念したように溜め息をついて立ち上がる。

「俺と死闘ができる券、でどうだ」

「へぇ」

神威が舌なめずりをする。

「いいの?阿伏兎死んじゃうよ?」

言葉はそういうが、神威の顔は笑っている。
阿伏兎はその笑顔から発せられる殺気を受け取りながら、

「…何を今更」

こちらも舌なめずりをした。





結果はまあ圧倒的であった。
阿伏兎の思っていたより戦闘は長引き、上出来だなと密かに思う。
血まみれになって倒れている阿伏兎を神威が見下ろす。
がつ、と鈍い音を立てて阿伏兎の腕が神威によって踏みつけられる。

「…オイオイ団長…さすがに腕なしじゃやってけねェ」

「何言ってんの?阿伏兎は死ぬんだよ」

「…そうかい」

阿伏兎は目を閉じる。
これで俺の人生も終わりか、などと考えるが、神威からのとどめは一向に来ない。

「団、長…?」

大量出血でぼんやりする頭を持ち上げ、部屋を見渡す。
神威が救急箱を持ってくるのが見えた。

「な…」

思わず絶句する。
神威はしゃべりながら、阿伏兎の手当てを始める。

「ねえ阿伏兎。俺は夜兎だ。戦って殺すために生まれた」

不慣れな手付きで消毒され、包帯を巻かれる。

「でも不思議だね。俺は今お前を殺したくないんだ」

「は…?」

阿伏兎が神威の表情を見ると、神威は少し不機嫌な顔をしながら包帯を結んでいた。

「だとしたら俺はどうして生まれたんだろうね」

「…」

「なんでお前を殺さないんだろう」

あのときもそうだ。
吉原の路地裏で死にかけていた阿伏兎を始末することなく、神威は手を差し伸べた。

「…」

手当てが終わったのを確認し、阿伏兎が上半身を起き上がらせる。

「阿伏兎?」

「団長が生まれた理由なんぞ俺がしるわきゃねーよ」

そう言って、片方しかない腕で神威の頭を撫でる。
神威は嬉しそうに笑って、

「だよねえ」

阿伏兎を見た。
阿伏兎は視線を逸らして頭をかく。

「なんで逸らすの」

「ああ?」

神威に言われ、もう一度視線を神威へ戻す。
と、柔らかいものが唇に触れた。

「なにを、」

阿伏兎が狼狽える様子を見て、神威が口をひきつらせる。

「地球では、自分のものにしたいモノに唇を重ねるんだろ?」

神威から、殺気ともいえる威圧を感じた阿伏兎は視線を逸らすこともできずただ言い返した。




「その知識間違ってますよ」











***

短いけど神威誕記念。

えぐいかむあぶも純愛かむあぶも好き
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