魔法鏡



もう少しだけ、この瞼に乗っていて。









沢山の人を殺めた。
恐ろしいほど沢山の人を。
そして傷付けた。
それなのに、俺は裁かれない。
罰を与えられない。
恩人が殺されてしまったのも罰であるかもしれないがそれだけでは足りない。
俺にはもう、人を愛する資格がない。
人と愛し合う資格はない。
ああ…これが罰なのか。


たくさん傷付けた。
罵倒して罵倒して殴って。
それでもお前の手を握ることすらできなかった。
否、資格すらない。
お前の声は聞こえているのに、鼓膜が揺れない。
届かない。


ともに記憶をなくした。
何日か一緒にいた。
嬉しくて嬉しくて、もう少しだけでも一緒にいたかった。
そのときにはすでに、お前に惚れていた。
だけどいつだって、お前の目に映るのは一人だけ。
お前はきちんと全員を見てるつもりだけど、でもやっぱり一番はアイツなんだ。
泣きたいのに、俺のこの性格じゃ泣けねーのよ、って言ったらお前はこう言いやがったな。
「泣きたいのに泣けないなら、笑えばいい」




お前は確かにあの女に嫌われてる。
それに一度仲間に裏切られたこともあらァ。
でもお前のことを離さねー奴らだってたくさんいるんだぜ、お前の周りには。
お前はちゃんとそいつらを護っていけるか?
離さないでいられるか?
ああ俺?
俺はそりゃあ出来ることならアイツらとの腐れ縁なんざ切っちまいてーよ。
でも、
『』
『』
なくしたくてもなくせねーんだよ。
俺はいつもなんだかんだでお前らを助けちまう。
俺は俺を止めれねーんだ。


お前が暗殺されそうだったとき、アイツは俺達に依頼をしやがった。
この俺達にな。
アイツは結局お前一人しか見えてねーのさ。
分かるか?
あのときお前は泣いてたな。
あ?涙を止めれなかっただあ?
お前ほんとアホだな。…泣き出して止めれねーなら歌えばいいんだよ。



お前はてめーを護れるか?
勇気の使い方が分かるか?
お前は不器用だからきっと苦手だろうな。
まあ出来ることは俺も手伝うから。
けどお前にはアイツがいんだろ。
アイツは、『アンタは真選組の魂だ』って口だけ達者なやつだけど、恥ずかしがり屋なだけだろ。
アイツがいるならお前はもう大丈夫だ。
俺は必要ねえさ。
お前の鏡には映らねーけど、その向こう側から見ててやるよ。
だから、




もう少しだけ、傍にいてくれ。
これで最後だから、俺の頼み、聞いてくれるか?
あと少しだけでいいんだ。
傍にいて、俺の手を握ってろ。
そうしたら、俺はもう向こう側へ行くから。


「あ」

鏡に映る自分は、泣き出しそうな顔をしている。
その向こう側でお前がアイツと笑ってて。
こちら側を見ても、お前は俺に気付かない。

「じゃーな、俺の好きだった人」

それをいいことに、俺はぼろぼろと涙を零した。









***

RA/DWI/NP/Sさんの同名曲から

これを聞いてからというもの、土近←銀が切なくて切なくて…


ちなみに魔法鏡とは、こちら側から向こう側は見えるが、向こう側からこちら側は見えない鏡のことです
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