Fire◎Flower



最初から君を好きでいられて良かった、なんて空に歌うんだ――――











――――江戸を、日本を出るんだ。
近藤が銀時にそう伝えたのは数日前だ。
真選組の江戸での活躍が認められ、とある国で起こっている紛争を止めるために派遣されるんだとか。
そして、近藤はこう付け足した。
――――いつ帰ってくるか分からないし、生きて帰ってこられるかも分からない。
銀時はそれを聞き、近藤を止めかけた。
だが、

「真選組の頑張りが認められたんだ!何とか手柄をあげてきてーな」

と嬉しそうに語るもんだから、

「………止められるかよ、ばーか」

銀時はそう呟いて、橋の欄干に頬杖をついた。
祭囃しの音が遠くから聞こえてくる。
もう辺りは暗くなり、夜と化しているが、夏祭りの屋台で仄かに明るい。
一緒に祭に来た新八や神楽は今頃お妙に連れられて屋台を回っているだろう。
賑わう河原とは裏腹に、橋の上はしんと静まり返っていた。
銀時は独りで、祭を眺める。
―――今日が、最後の日。
今夜、真選組は日本を旅立つという。

「………」

銀時がむ、としていると、静かな橋に、五月蝿い声が響いた。

「万事屋ァ!悪かったな、遅れてっ」

ばたばたと近藤が橋を駆け上がってくる。
銀時の元にたどり着き、息を整える。

「遅ェぞゴリラ。足もゴリラ並みに遅ェってか」

「ゴリラ言うなっ……これでも走って来たんだからな」

「はいはい」

銀時が近藤を軽くあしらって、屋台を見下ろす。
それにつられて、近藤も同じようにする。

「あっお妙さんだ」

「この人混みでよく分かるなお前…」

「ふふん、お妙さんのことに関しちゃ舐めんなよ」

そう言いながらも、近藤はお妙を追おうとはしなかった。
そこはさすがに分かってんのか、と銀時が近藤の横顔を盗み見る。
子供のようにはしゃいで屋台を見る男。
その男が愛しくて愛しくて。
銀時は視線を戻し、口を開いた。
そのとき、近藤の携帯が鳴りだした。

「……トシだ、」

電話に出ようとする近藤の手を銀時が掴む。
そのまま携帯を取り上げ、電話を無視し、電源を切った。

「ちょ…何すんだよ」

「そこは分かってねーんだな」

「は?」

銀時は携帯を近藤に放り投げながら言う。

「今日は、俺だけ見てろ」

近藤が携帯を受け取り、

「……はいはい」

銀時と同じように返して、照れ笑いをする。
そして何かに気がついたように、あっ、と口を開け、

「お前、さっき何か言おうとしてなかったか」

「ああ、それは」

銀時が近藤から視線を離し、橋に寄りかかる。

「もしもの話だけどよォ」

「ん?」

近藤が銀時の方を見るが、銀時は視線を合わさない。

「世界の終わりが今訪れたとしたら」

「?」

「全部ほっぽってふたり永遠に一緒なのにな」

「………ぶっ」

「…笑うなコノヤロー」

くすくすと笑う近藤を、銀時が睨む。
近藤はひとしきり笑い、

「お前がそんなにロマンチストだったとはなあ」

「悪いかよ」

「いや、悪かねーけどさ……それより、祭には行かなくていいのか?」

「あー?…いいんだよここで」

銀時は橋の欄干にもたれたまま動かない。
川の遠くをじ、と見ている。
近藤が不思議に思いながらも欄干に手をつき、川を見る。
と、近藤の手の上に銀時の手が重ねられた。

「万事屋、」

「俺は」

近藤の言葉を、銀時が遮る。

「お前がいなくなったら消えちまいそうだけど」

お互いに、顔は合わせない。
ただ、前を見る。

「消えねーよ」

河原で、法被を着た男達が筒を囲んでいる。

「ずっと、この町で、万事屋やってる。新八も、神楽も一緒にだ」

ひゅる、と音がして、

「お前が帰って来て、見つけやすいように」

夜空に大きくて明るい大輪が咲いて、

「あの花火みてーにさ、」

後から大きな音が雷鳴のように響く。

「火の粉散らして、音轟かせて、」

そして、次々と花火が打ち上げられていく。
暗かった空が明るく輝き、祭に浮かれる人々もみな空の大輪たちに目を向ける。
打ち上がっては音を響かせて輝いて。
ずっと、光は止まない。

「だから…っ」

銀時の言葉はそこで途切れた。
『ガンバレ』と一言言いたいのに、
声が出なくて、
ただ空に咲く大輪を見届けることしか出来なくて、
近藤の顔を見ることすら、出来なくて、
だけど、手にある温もりはしっかりと感じられて。

(辛ェ…)

ああもう、と銀時はただ口を動かす。

「最初からてめーを好きにならなきゃ良かった」








宇宙の始まりがもし俺たちのあの口付けだとしたら、
星空は俺たちが零した奇跡の跡、
……なんてな。
前、そう言ったら笑われた。
でもよ、と俺は付け足した。
俺たちゃ生まれも育ちもバラバラだ。
姿も形もそれぞれだ。
しかも男同士と来たもんだ。
そんな俺たちが一緒にいるなんてある意味奇跡だろが。
って言ったらさらに笑われた。
まったく、ゴリラにはロマンは分からねーのか。
って言ったら怒ってきた。
そんなお前が好きで好きで仕方がなくて、
でも、
こんなに辛いなら、








「最初からてめーを好きにならなきゃ良かった」

バレてんだろうな、どうせ。
銀時はそう思って口を閉ざした。
近藤は、ただ花火を見ながら言う。

「もし、人生の途中が線香花火だとしたらさあ」

は?と銀時が思わず近藤を見る。
その横顔は、花火の光に照らされていたのに、表情がよく分からなかった。
けれど、声が震えていたのは確かで。

「一瞬でも向日葵みてーに咲いてみたいよな」

また、夜空で花火が咲いた。

「いつか、大手柄あげて、」

そして、最後の一つであろう一際大きな大輪が咲いて、

「夜空に大輪を咲かせてやるから、そのときまで、待ってろ!」

に、と銀時に向けた顔には涙が流れていて、
それを見た銀時からもぼろぼろと涙が零れて、
それでも銀時は、はは、とぎこちなく笑って、
近藤もつられて笑い、

「最初からてめーを好きでいられて良かった」

と、夜空に謳った。
銀時は近藤の手に重ねていた手を離し、無理矢理笑って、

「頑張れ」

背中を向けた近藤に、呟いた。









五年後――――

ピンポン、と万事屋のチャイムが鳴った。

「はーい……って…まさか近藤さん!?帰って来たんですね!」


「新八くんじゃないか、大きくなったな」

「ゴリラはちょっと老けたアルな」

「言うなよっ気にしてんだから」

「銀さんに用ですか?」

「ああ。いるか?」

「いないアルよ。たぶんパチンコネ」

「そっか」

近藤は、ありがとな、と言い残して万事屋を去っていった。

「いねーなあ」

銀時を探しているうちに、日が暮れてしまっていた。
隊服のままで来たので、夏の夜は暑い。
そろそろ着替えに屯所に帰るか、と思い、最後にあの橋へ向かう。
(ここに居なかったら帰ろう)
橋を上がる。
橋の上で、欄干に頬杖をつく男がいた。
近藤は溜め息をついて、

「結局探しちまったじゃねーか」

と男に近寄る。
男―――銀時は、五年前と変わらない格好で、近藤を見ると、川に目を落とした。
河原では、幼い子供たちが、手持ち花火で遊んでいた。

「新八くんとチャイナさん、大きくなったなあ」

「だろ?新八に抜かされそうだぜ、身長」

「はは、総悟もあれからでかくなってなあ。トシも少し伸びたな」

「あいつら生きてんのかよ…チッ」

「まあそう言うなよ。中には戦死したやつもいるんだから」

「………花火」

銀時がぽつりと呟く。

「花火、咲いたか?」

近藤は笑って、子供たちに目を向ける。

「咲いたさ。でけーのが」

「そうか」

銀時はふ、と笑うと近藤の手に自分の手を重ねた。

「最初からてめーを好きにならなきゃ良かった」

近藤は一度驚いてから、

「……俺もだ」

と、手を握り返した。


君を好きで好きで辛いから、




最初から君を好きにならなきゃよかった




なんて嘘までついたけれど、





やっぱり好きだから、





最初から君を好きでいられて良かった






なんて空に歌うんだ。












***

すいませんしたアアアアア


タイトル、内容は鏡音レンくんのFire◎Flowerからいただきました

素敵な曲なので是非聞いてほしいです



銀近可愛くてつらい

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