記憶に残る温もりは*後
君への思いは消えてしまったけれど、
君と過ごした記憶と、
その記憶に残る温もりは、
あれから、一週間近く過ぎた。
銀時は朝の日差しを浴びながら椅子に座って頭をがしがしと掻いた。
「………チッ」
(まだ、残っていやがる)
坂田さんとして過ごした記憶が、まだ銀時には残っていた。
だがそれはいい。
問題なのは、
(この意味不明な感情……なんだよな)
銀時は机に突っ伏した。
神楽はまだ押入の中で眠っている。
銀時は溜め息をつくと、頭の整理をしようと試みる。
自分が記憶を失っていたとき、自分は、坂田さんとして過ごしていた。
その日々を思い出す。
ジャスタウェイを作り続けた。
あのゴリラにも遭遇した。
地味な監察にも遭遇した。
そして、あの夜のあの告白。
「うぅ…」
思わず頭を抱える。
あの告白をしたのは坂田さんであって自分ではない。
だとしても、
「なんでよりによってゴリラなんだよ…」
よくよく考えてみれば、あれはゴリさんであって自分の知る近藤ではない。
だとしても、
だとしても…っ
「いやいや、あいつはありえねー…」
銀時の思考はそこで止まる。
この先の記憶がないのだ。
いや、新八や神楽に(ついでに近藤にも)助けられた記憶はあるのだが、あの告白の日の夜のことが思い出せない。
なにか、大切な約束をしていたような…
「――――クソッ」
銀時は徐に立ち上がった。
今まで、いろいろな気まずさがあり、自分から近藤に会おうとはしなかった。
だが、さっさとこの訳の分からない記憶とおさらばしたい。
近藤に会えばなんだか全てが終わるような気がする。
そう思い戸を引く。
「「あ」」
玄関の外には、近藤が気まずそうに立っていた。
そのすぐ後にやって来た新八に神楽を押し付け、銀時は近藤を万事屋へ入れた。
「何のようだゴリラ」
いつものように憎まれ口を叩く。
近藤は、ソファの上でそわそわしながら、
「なあ万事屋、お前…俺が記憶喪失のとき何があったか知ってるか?」
「あ?」
近藤は、自分がゴリさんとして過ごした記憶を全く覚えていないらしかった。
自分が記憶喪失であったことは、山崎に聞いた、とのことだった。
「あん?んなこと聞いてどうすんだよ、お前大したことしてねーぞ」
「本当に?」
「………どういうことだよ」
「ここ一週間、ずっと変なんだよ…お前のことを考えるだけで変な気持ちになる……一週間前っつったら、俺が記憶喪失だったときだ。つまり、その時なんかあったってことだろ」
近藤が、縋るように銀時を見る。
向かい側に座っていた銀時は、その視線を受けて立ち上がり、近藤の隣に座った。
「なあ万事屋、」
「俺もだよ」
「へ」
「…俺もてめぇのこと考えるだけで変になるって言ってんだよっ」
銀時がばつが悪そうに目をそらす。
そのまま、自分が坂田さんであったときのことを近藤に話す。
そして、
「俺とお前は両思いだったらしい」
「はあ!?」
「こういうことだろ…?」
銀時はソファに近藤を押し倒した。
近藤が銀時の目を見て気付く。
(万事屋…じゃない…?)
する、と銀時が近藤の右手に指を絡める。
絡まった指先が熱くなっていく。
記憶はない。
なのに、感じたことのある温もり。
「坂田、さん…っ」
近藤が無意識のうちに呟く。
「ゴリさん…やっと会えた…」
ちゅ、と『坂田さん』が『ゴリさん』にキスを落とす。
その感触を唇に感じながら、『近藤』は意識を手放した。
ごん、と鈍い音がして、銀時は目を覚ました。
ソファから落ち、頭を打ったのだな、と自覚する。
今は昼前。
どうやら結構な時間眠っていたらしい。
ソファを見ると、近藤が眠っていた。
「………」
あれ、と銀時は唇を己の指でなぞる。
感触が、今でも鮮明に思い出せる。
(コイツと…キス、した………!!)
ああああ、と叫びたい気分になる。
男と、しかもゴリラとキスを、
(ん、?)
銀時はそこまで考えて、首をひねった。
(なんでキスなんてしたんだ)
(ていうかなんでこいつがここにいるんだ)
銀時は、頭を打ったせいなのか、記憶を失っていた。
坂田さんとしての記憶を。
と、近藤が呻きながら起き上がった。
「ん…どこだこ、こ……」
近藤が銀時の存在を確認した瞬間、顔を真っ赤にした。
どうやら、キスをした記憶は残っているらしい。
銀時は慌てて聞く。
「オイゴリラ!なんで俺たちキスしてんだ!?」
「し、しらねーよっ!俺だって知りてーよ!!」
近藤は真っ赤な顔で返すと、万事屋を立ち去ろうとした。
その右手を銀時が掴む。
「…なんだよ」
「いや…なんか…離したくない」
「はあ!?キモイ!!」
「俺だって気持ちわりーよ!でもなんか…離れちゃいけねー気がすんだよ!」
銀時がさらに強く近藤の右手を掴む。
近藤はむ、としながらも銀時の隣に座り直した。
「や、やけに素直だなゴリラ…」
「うるせーな…なんか俺もそんな気がしただけだっつーの」
そっぽを向く近藤。
銀時か、近藤の指に、自分の指を絡める。
ぎょっとした近藤であったが、離すことはせず、しばらくそのままでいた。
「万事屋」
「なんだ」
「俺今すげー…ドキドキしてる」
「奇遇だな、俺もだ」
「なんなんだろうなこれ」
「俺のこと好きなんじゃねーの」
「……言うなよばか」
近藤があいている方の手で自分の顔を覆う。
銀時はその手を剥がし、唇にそっと口付ける。
「つまりこういうことだろ」
「……ばか」
二人は、自分の心が、繋がれている手と同じくらい温かくなるのを感じた。
記憶に残る温もりは、
記憶を失っても残るから、
だから、
『ねぇゴリさん。僕らの約束は叶ったから、新しい約束をしよう』
もし記憶がなくなっても、
『ずっと一緒にいよう』
***
無駄に長くなってしまいました
銀近において、根底にあるのは坂ゴリだと思うんです
坂ゴリがあって、銀近がある気がします
土近においての土ミツだとか、銀マダにおいてのハツさんの存在だとか
なくてはならない、そんな気がするんです
あくまで個人的にですが^^
近藤さんは心の奥底ではゴリさんとしての記憶があったという今更な補足
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