記憶に残る温もりは*前
ただ、名前を呼んでくれるだけで嬉しかった。
ただ、手を重ねるだけで空っぽの心が温かくなった。
君を、好きだった。
「あなたも記憶がないんですか」
銀時の問いに、大柄の男が頷く。
といっても、今この銀時は、銀時ではないのだが。
「僕も記憶がないんです。…坂田といいます、えぇと、」
「……よろしくお願いします」
男が小さく呟く。
うつ向き、心細そうな男に笑いかける銀時。
「ゴリさん、でいいですか?」
その笑顔に、近藤の心臓が跳ねた。
あれから、何日か経った。
ただ、ジャスタウェイと名付けられた謎の物体を作り続ける日々。
けれど、何故か悪い気はしなかった。
そう思いながら、近藤は今日もジャスタウェイを作る。
「あのっ、坂田さんっ…」
「どうしたの、ゴリさん」
「このジャスタウェイ、どうですか」
「うん、もう少し手をこうして…」
「なるほど、…ありがとうございました!」
「うん」
パタパタと持ち場へ戻る近藤を、銀時が見送る。
銀時の表情がふっ、と曇る。
(…ゴリさん、君はそうやって笑って僕に接してくれるけれど)
(僕は君に、黒い気持ちを抱いているんだよ)
持ち場に戻った近藤は、銀時に言われた通りにジャスタウェイを直し、小さく息をついた。
(坂田さんはいつも僕に優しいけれど)
(僕は坂田さんのことが、)
ジャスタウェイを何体も何体も作り、今日もまた二人の一日は終わった。
いつもなら、マムシ工場近くの寮に行き、玄関前でおやすみなさいを言ってそれぞれ自分の部屋へ入る。
だが今日はいつもと違った。
「じゃあゴリさん、また明日…」
「坂田、さんっ」
「?どうかした?」
「あのっ…今日、坂田さんの部屋に行ってもいいですか…?」
「?」
「なんだか今日、眠れそうにないんです…実は昨日、」
「いいよゴリさん、とりあえず中においで」
銀時はドアを開けて、近藤を招き入れた。
先にお風呂に入って、と近藤を風呂に行かせ、その間に近藤の部屋へ入り寝間着を取ってくる。
「ゴリさん、寝間着取ってきておいたから」
「あ、ありがとうございます」
風呂の中からくぐもった声が聞こえてくる。
銀時はそれを確認すると、布団を敷き始めた。
(布団…一組しかない…ゴリさんは、僕と一緒に寝るのは嫌だろうか)
そう思っていると、近藤が風呂から上がってきた。
「お先、失礼しました」
「いやいいよ、それよりゴリさん、僕と一緒に寝るのは嫌じゃないかい」
「えっ…!………嫌、じゃないです」
「そうか、ならよかった」
銀時は近藤に微笑むと、自分も風呂へ向かった。
「――――で、どうしたのゴリさん」
濡れた髪をがしがしと拭きながら銀時が問う。
近藤はすでに布団に入っており、髪は少し崩れた状態であった。
「…夢を見たんです」
「夢?」
「はい。もとの自分に戻った夢を」
「…」
「詳しくは覚えてないんですけど…坂田さんはいませんでした」
「……」
髪を拭き終えた銀時が布団に入る。
近藤と向かい合う形で寝転がる。
「それで僕、怖くなったんです。もし記憶が戻ったら、坂田さんと一緒にいられなくなるんじゃないかって。坂田さんのこと、忘れちゃうんじゃないかって…」
「ゴリさん…」
「坂田さん…僕…っ」
近藤がボロボロと泣き出してしまう。
銀時はその涙をそっと指で掬って、
「聞いてくれゴリさん」
「?」
「僕…ゴリさんのことが好きなんだ」
「えっ」
「男の僕がこんなにもゴリさんのことを好きだなんて、可笑しいことかもしれない。でも、好きなんだ」
ぎゅ、と近藤の手を握る。
その手は暖かくて。
悲しみだとか恐怖だとかを全て忘れさせてくれるような温かさで。
ああ、と近藤は思った。
坂田さんの、この温かさが大好きなんだ、と。
「僕も、好きです」
「!」
「坂田さんの温かさが、坂田さんが、大好きです」
「ゴリさん、」
はにかむ近藤。
その近藤の手も温かくて。
その手と同じくらい、笑顔が温かくて。眩しくて。
「僕も、ゴリさんの笑顔が…ゴリさんが大好きだ」
お互いに、心がぽかぽかと温かくなっていく。
銀時がふと笑う。
「ゴリさん、約束をしよう」
「約束…?」
「もし記憶が戻っても、僕はゴリさんを忘れないしゴリさんも僕を忘れない。そうしていればきっと、また会えるはずだから。そして、また会えたときには―――――――
また二人で、手をつなごう?
***
続きます
無駄に長くてすみません
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