ちゅーしやしょう
*武州要素を含みます
沖田は、自分に背を向けて欠伸をしている近藤に話しかけた。
「近藤さん」
ん?、と振り返る近藤。
「ちゅーしやしょう」
「…は?」
沖田の唐突すぎる一言に、近藤が目を丸くする。
だが沖田は動じず、言葉を続ける。
「キスですよキス」
「…え、どゆこと」
「いつもしてくれてたじゃないですかィ」
「…いつも?」
頭に疑問府を浮かべる近藤をヨソに、沖田はカメラ目線になると告げた。
「回想入りまーす」
もわんもわんもわわ〜(回想に入る音)
時は武州時代。
近藤が土方と出会う少し前。
道場での練習が終わり、沖田は近藤に連れられて、帰路についていた。
沖田の小さな手と、近藤の若いながら大きい手が繋がれている。
夕日が後ろから照らしてくるなか、人通りの少ない堤防を歩く。
「今日も頑張ったなあ総悟」
空いているほうの掌で、沖田の頭をわしゃわしゃと撫でる。
思わず、沖田の顔が綻ぶ。
「よっしゃ、駄菓子屋でなんか買ってやるぞぅ!」
何がいい、と訊いてくる近藤の顔をぼぅっと見ながら、ふと呟く。
「……肩車」
「ん?」
「肩車、してくだせぇ」
「そんなんでいいのか?」
頷く沖田。
近藤は微笑むと、沖田を抱き上げ、肩へ導く。
そして、肩車をしてやる。
沖田が笑ったような気配を感じとると、再び歩き出す。
「高いでさぁ」
「だろ?いつかお前もこれくらい大きく…でも俺より大きくなるのはなぁ」
ううむ、と近藤が頭をひねる。
自分より大きい総悟かあ、想像できんなあ、ミツバ殿が華奢だから総悟もあれくらい、いや、…などとあれこれ考えるが、沖田の言葉によって思考が止まる。
「近藤さん、次はだっこがいいでさぁ」
「ん、おう!」
沖田を肩からおろし、腕の中に収める。
まだまだ小さいなあ、と思う。
と、沖田がこちらをじい、と見ていることに気付く。
「どした、総悟」
「…ちゅーしやしょう」
「ちゅ、ちゅー…?」
「…ダメですかぃ?」
「え、うーん…普通は男同士じゃしないんだけどなあ…まあいいや」
「ほんと!?」
沖田が目を輝かせる。
そして、近藤が、いいよと言う間もなくキスをした。
ちゅ、と音と立ててされたそれは、あまりにも幼稚なものだったが、沖田にとっては大きなことだった。
そうして、土方が現れるまでの間、キスをすることは二人の日常茶飯事となったのである。
もわんもわんもわわ〜
「ハイ回想終わり」
「そんなこともあったなあ」
近藤が沁々と頷く。
沖田は近藤ににじり寄ると、
「キス、しやしょう」
「まあそういうことなら、……総悟は甘えん坊だなあ」
「たまに近藤さんが恋しくなるんでさァ」
「そうかそうか」
つくづくバカなお人だ、と沖田は心で呟く。
俺がアンタに抱いているのは恋愛感情なんですぜィ、近藤さん。
「よし、総悟!い―――」
いいぞ、と言う前に、沖田が近藤の唇にキスを落とす。
ああ、あのときと同じ感触だ、なんて思ってしまう。
沖田は余韻を感じながら唇を離すと、近藤を見つめ、笑う。
「……っ」
沖田の眼差しに、心臓が跳ねる。
「…ありがとうございやした、見廻り行ってきまさァ」
「お、おう」
沖田がその場を後にする。
「………」
総悟も大きくなったなあ、と小さく呟く。
「オイ総悟、遅ェぞ」
「ちょっと厠に行ってやして」
沖田は平然と嘘をつき、土方の後を歩く。
ふと、指で自分の唇に触れる。
まだあの感触が残っている。
アンタが気付かなくても、俺ァアンタにずっと付いていきやすぜィ。
***
無駄に長いなあ…
沖近はほのぼのが好きです!←だからなんだ
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