二人一組

「明日はみんなで遊びに行くよ」
夕食後、ラウンジで寛ぐ7人に向けてトレーシー家の長である祖母が言った。


それは大がかりなレスキューを終えた翌日のこと。そのレスキューの反動か世界のレスキュー案件は驚くほど落ち着いていて、ジョンも家に降りてくる程だった。このままなら明日も比較的落ち着いているだろう。だから祖母もこのタイミングで話を切り出したのだ。
「遊びに行くってどこに?」
アランが興味津々に身を乗り出す。
そんなアランに祖母が口にしたのは、世界的にも有名なテーマパークだった。
「そこ行ってみたかったんだ!」
アランは目を輝かせるが対照的にジョンは困ったように眉を下げた。何故ならそこは広大な土地に豊富なアトラクション、大勢の人とジョンにとっては苦渋の場所だからだ。
「おばあちゃん、僕は留守番してるよ。何が起こるかわからないから」
「EOSとGDFに任せられるじゃないか。今回は慰労遠足だからね。ここにいる全員で行かないと意味がないんだよ」
祖母の言葉にMAXは嬉しそうにくるくると回ったがブレインズに「君は留守番」と言われると落ち込んだようなモーター音と共にアームを下ろした。それはまるで肩を落としているようだった。
「もう8人分のチケットも買ってあるんだよ」
そこまで言われたら逃げれない。
ジョンは慰労ならテーマパークじゃなくてもと思ったが、それ以上は何も言わずに「わかった」と頷いた。

「でもおばあちゃん、テーマパークでぞろぞろ団体行動するつもり?」
バージルが尋ねる。
たかが8人、されど8人だ。特に予測不能な動きをする兄弟もいるのだから間違いなく誰かが迷子になりそうだった。
「確かにアランとかジョンが迷子になりそうだよね」
「アランはまだしも何で僕もなんだよ」
「人混みに負けてはぐれそう」
ゴードンの言葉にジョンは横目で隣のソファーに座るゴードンを睨んだ。
「お前も迷子組だよ、ゴードン」
「僕は自分の意思で動いてるから」
「端から見たらそれを迷子って言うんだよ」
バージルは過去のアレコレを思い出して苦い顔をするが常習犯のゴードンは全く気にしていない。

そんな中、スコットが提案をした。
「二人一組にしてそれを行動最小単位にしたらどうだ」と。
それなら最低でも二人はいる訳で、迷子になるリスクも減るし迷子になっても何とかなるだろう。昼ごはんは集合してその後はそれぞれ別行動してもいい。効率的な提案だったが、その二人一組が大きな騒ぎに発展するとはスコットはまだ知らなかった。

※※※※※

「僕、アトラクション全部制覇したい!」
アランが勢い良く手を上げる。
しかしそれに続くものはいない。広大なテーマパークのあちこちにあるアトラクションを制覇しようとしたら最短ルートを選んだとしても歩きっぱなしだろう。もちろん端から制覇する訳でもなく、あっち行ってこっち行って…。考えるだけでも足が痛くなりそうだった。
そんな訳でジョンは当然ながら他のメンバーもアランのプランに賛同しかね、スコットとゴードンにアランに同行しろと言わんばかりの視線が送られた。
「僕は最新の映像型アトラクションを見てみたいな」
「あぁ、それは僕も興味ある」
ブレインズが言えばジョンが同意する。最新技術を詰め込んだと大々的に宣伝していたのを見ていたからだ。
「何か新しいアイディアが浮かぶかもしれない」
「まるで調査だな」
眼鏡をかけ直すブレインズにジョンは笑う。こうして自然な流れでブレインズとジョンの二人組が出来上がった。

「僕はパレードが見たい。ケーヨは何したい?」
「私はゆっくり雰囲気を楽しめたらいいわ。美味しいものを食べたりしてね」
「それもいいな。特設会場のフラワーアレンジメントが最高らしい」
「それはステキね」
バージルとケーヨの大人な楽しみ方にアランは「えー?」と不満の声を上げた。
「ご飯やパレードよりアトラクション乗ろうよ」
「大丈夫よ、アラン。スコットかゴードンが一緒に付き合ってくれるから」
ケーヨは「ね?」とスコットとゴードンに目線を向けるが、スコットとゴードンは同時に目を逸らした。広大なテーマパークを縦横無尽に歩き回ることは100歩譲って構わない。ただ食事も抜きでとなれば、それは最早訓練ではないか。今さらメリーゴーランドではしゃげる歳でもない。
かと言ってそんなプランに祖母を付き合わせる訳にはいかない。
ゴードンは隣のスコットの袖を引くと小声で「共闘しない?」と囁いた。
「アランと一緒にアトラクション制覇なんてしたら子守りで1日終わっちゃうよ。かわいい女の子とお知り合いになる機会すらない」
「ここで組むってことか?」
「さすがスコット、話が速い!で、アランはバージルに任せる。どう?」
「悪くないな。おばあちゃんとケーヨの組になる訳か」
ゴードンとスコットが契約成立とばかりにニヤリと笑う。そこにジョンの「スコットとゴードンは組むなよ」と冷たい声が響いた。
「パーク内での迷惑行為は禁止だ。僕達まで出禁になる」
「おい、ジョン。誰がそんなことを考えてると言った」
スコットは慌てて否定するが他のメンバーの視線は冷ややかだ。アランには「最低」と言われ、祖母には「情けない」と溜め息を吐かれる、ケーヨは目も合わせてくれない。
「誤解だって!適度にアトラクションを楽しもうって話をしてただけだよ」
「ナンパはアトラクションじゃないぞ」
「バージル!」
ゴードンは焦ってソファーから立ち上がった。もしこの話がペネロープに伝わったら一大事だ。そんなやり取りを余所にアランは「もういいよ」と言った。
「僕1人で遊んでくるから」
すっかり拗ねたアランだが、それをスコットの厳しい声が遮った。
「ダメだ!誘拐にあったらどうするつもりだ」
その表情は先程ナンパ疑惑をかけられて慌てていた時とは異なり、まるでレスキュー中のような真剣な顔だ。その代わり具合にアランはビックリしてスコットを見返した。
「誘拐って…あのセキュリティのしっかりしたテーマパークだよ」
アランは小首を傾げるがそれすらスコットの不安を煽る。スコットは再び「ダメだ」と言うと「いや、それだと…」と考え込むように顎に手を当てた。
「アランとゴードンでも誘拐される恐れがあるな。ケーヨは強いけどそれでも何があるかわからない…ジョンだって…。いっそのことテーマパークごと貸し切るか。そうだな、それがいい」
スコットは端末を取り出すと何処かへ連絡を取ろうとさしたが、それを隣のゴードンが呆れたように止めた。
「言いたくないけどスコットのそういう所、直した方がいいと思う」
ストレートなゴードンの言葉にスコットが心外だという顔をするが、他のメンバーも同意するようにウンウンと頷いていた。


「そんなに心配ならスコットがアランを守ればいいじゃん。僕はおばあちゃん孝行してるから。バージルとケーヨと一緒にパレード見ようよ」
先程の契約をあっという間に破棄したゴードンにスコットは文句を言いかけたが、文句の代わりに「おばあちゃん孝行なら僕がするよ。いつも心配させてるから」と言った。
「へぇ、心配させてる自覚はあるんだ」
バージルが思わず口にすれば「言葉の綾だよ」とスコットは肩を竦めた。
「心配度合いなら僕も負けてないよ。連絡取れなくなる回数は僕の方が多い」
「最悪な主張だな」
ジョンは諦めたように前髪を払った。

「もう3対3でいいんじゃない?」
「そうだな。おばあちゃん、僕とケーヨと一緒に廻ろうよ。アランにはスコットとゴードンが一緒に行けばいい」
ケーヨの提案にバージルが頷く。
話は纏まったとばかりにジョンが席を立てば、ブレインズもそれに続いた。
「え?待ってよ。二人一組って話じゃないの?」
「迷子を防ぐ為だろ。ここだけハイリスクじゃないか」
ゴードンとスコットは口々に言うが、バージルが「スコットがちゃんと見張ってればいいだろ」と言い、ジョンが「アランを置いてナンパも出来ないだろうしな」と言えば2人は沈黙した。
「明日は10時に出発だからね。早く寝るんだよ」
祖母がラウンジを出ていくと、ジョン達もラウンジを後にする。
残されたスコットとゴードンの間にアランが座るといつの間にか用意したテーマパークのマップを映し出した。
「全部廻るには予定を立てないと!閉園22時まで全力で遊ぼう!」
意気揚々とアトラクションを廻るルートを考えるアランにスコットとゴードンは「22時…」「全力…」と力なく呟いた。


「スコットの力で閉園早められない?16時とかに」
「難しいだろうな」
楽しそうなアランの頭上で、ゴードンとスコットは往生際悪くコソコソ話すのだった。
- 126 -
[*前へ] [#次へ]
戻る
リゼ