元帥探しの旅路


神田とマリが交戦中。大量のレベル1、2を掃討するのは高い屋根から弓を引く○○。アクマを射抜き倒す度に、彼女は右目のスコープを頼りに戦場を見回し、光に集まる虫のように群がる敵を感知しては先手を打つ。

○○が2人から背後に視線を動かした時。


「アァ、嗚呼、あぁ、」

「っ、レベル3か!」


複数のアクマを押し潰した建物の残骸から、声が上がる。彼等に気づかれぬよう執念深く地中へ潜り込み、今か今かと機を窺っていたそれが進化を遂げ、鎧を纏った禍々しい姿となり神田達の前に這い出てきたのだ。

レベル3の意識が上に向いたことに神田は気づくも、取りこぼしたアクマに襲われてやむなく迎撃する。


「あの、オンナ、消さネば」


生まれたて。やや覚束無い声を発し、素早く屋根に飛んだ。


「○○ッ!」

「っ、あ、がっ!?」


神田の声に振り返った○○の首を捕らえたレベル3が、力のまま煙突に叩きつける。


「鬱陶しい、鬱陶しいなぁ、その、弓矢ぁ!
 臆病者がァっ! 殺してやろう!!」

「ぅ、ひぎっ……!」


崩れた煙突から煤だらけの○○を引き摺り出すと、暴れる彼女を宙に掲げる。一切の加減が無い握力により、○○の顔はみるみる青紫になり、引きつる口元からは泡が吹く。ばたつく手足はボキッと骨の折れる音と共に脱力した。


「ふ、ふふ、あはハハハハッ! 脆い、脆いなァ、エクソシスト! 所詮人間は──!」

「強いのよ。美しきを愛でる心があるもの」

「な、何故ッ」

「『弓銃』」


レベル3の首筋に突きつけた愛の弓矢から、強力な矢が放たれた。距離は零。レベル3の装甲を簡単に突き破り、頭と体を分断して、破壊した。


「……」


周囲を見回し、地に伏す彼女の頭を撫でると淡い光となり弓に戻っていく。

アクマの標的が遠方の己に向けられた時、どうしても矢を放つ動作は間に合わない。隙を突かれ、殺される。そのために編み出したのが、もう一人の○○「血染めの狙撃手」

逃げて、弓を引いては逃げて、幻の己を殺してまで──敵にさえ、臆病者と嘲笑される。
美しき愛から生まれてしまったそれを、表情一つ変えられずに破壊する己の冷たさ。

美しい戦い方、美しい生き方とは程遠い。


「泥んこ上等。美しいモノが分かりやすい」


ふ、と雲に光が差した。闇に包まれた街に、朝日が昇る。眩しさに目を細める彼女の耳に軽い着地音が2つ届いた。


「○○!」

「怪我は無さそうだな」

「ユウもマリも、無事で何より」


戦場にて○○が満面の笑顔を見せるのは、仲間と生存を確かめ合う瞬間だけだ。


──この世の美しさを知りなさい、○○。
生から逃げるのは、それからでいい。


「……首、痛いなぁ」

「あ? 揉んでやろうか?」

「珍しいな、神田が労るとは」

「レベル3相手に無傷のがやべぇだろ」

「あぁー、地獄耳2人を前に呟きは無意味。肝に銘じておきまーすっ! 眠ぅーいっ!」

「お前せっかく俺が気ぃ遣って」

「フロワ師匠の身が危ないよ、マリ!」

「ああ、急ごう。早歩きで!」

「てめぇ等……!」



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