リヴァイヴ(1/5)


広場でキースが新兵を集めて演説しており、彼の隣に立つエルヴィンが何度も頷く素振りを見せる。

俺は壁外調査の報告書作成を終わらせ、彼等の様子を2階の部屋から見下ろすように眺めていた。


「──地を奪還し、人類の復興を!」


長ったらしい演説がようやく終わる。最初から……そう、報告書にペンを走らせている時から、全て聞いていた。

だが、それは形だけのことで、まるで耳に入っていない。

心の底から聞いていたのは「復興」のみだ。聞いていたと言うより聞こえたと言った方が正しいな。

一息吐いて空を見上げると、ドンドンとドアをノックする音が聞こえる。足か、足で蹴ってやがるのか。


「開けてくださーい、腕がもげちゃいます」


なんとも間抜けな声の主は、どうやら書庫から本を運んできたらしい。床に置くことを思いつかないばかのために、わざわざドアを開けてやる。


「あっ!」

「いっ!」


大量の本を抱えたマゾに、不覚にも脛を思いきり蹴られた。


「リヴァイがドアを開けちゃうから……」

「『開けろ』と言ったのはどこのどいつだ」

「私です。申し訳ございません」


○○はくすくす笑いながら、机の上に本を置いて肩をぽんぽん叩いている。「こいつも歳だな」なんて考えながら、彼女が書庫から持ち出してきた本を手に取る。


「最近のガキはこんなんで喜ぶのか?」

「最近も何も、小さい子は絵本を愛するものですよ」

「ああ、ここにもガキが居たか」


瞳を輝かせる○○を鼻で笑う。彼女は「むぅ……」と、不服そうに唇を尖らせて愛くるしく拗ねやがる。俺は○○の頭をぽんぽん撫で、窓辺に寄りかかると外を見た。


「何を見ているのですか?」

「キースの演説でビビっちまった腰抜け共の表情と、今にも雨が降りそうなこの空、なんか似ていると思ってな。お前も見ろ」


手招きすると、彼女は読んでいた本を閉じてこちらへ駆け寄ってきた。2人で窓から顔を覗かせる。


「……可愛らしい」


○○は愛くるしい笑みを浮かべ、怯える奴等を見下ろす。母性本能とやらが働き、彼等を抱き締めたいとか思っているんだろう。


「それにしても、雨、降りそうですね。今朝はあんなに晴れていたのに……洗濯物……」


……復興……雨……昔を、思い出すな……。


「リヴァイ」

「……あ?」

「何か考え事ですか?」

「なんでもねぇ。それより○○、少し俺の話に付き合え」


別に深い意味も、特に深い感情も無かった。

ただそこに、彼女が居たから。自分のことを話したくなった時、傍に○○が居たから。それだけだ。


「どのようなお話ですか? 童話か、もしくは……」


○○はソファーに座り、目を細める。本を読んでもらうのをわくわくしながら待つガキのような、無邪気な瞳で俺を見つめる。


「……俺の」


俺は彼女のように目を細めた。昔を懐かしむように、ガキの心を思い出すように。


「この『リヴァイ』と言う名前についてだ」


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