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媚薬、微ヤンデレ、恋は盲目
ちょっと流血、ちょっと痛いこともあります
「おかえり」
久しぶりにくぐった大きな門の向こう側、闇の中に柔らかく微笑む一人の男が居た。
「ヴィンス…?こんな時間にどうしたんだ」
時刻は午後の十時を回ったところ。貴族の人間が屋敷の外に出る時間ではない。
「ギルがこっちに向かってるってエコーから聞いたんだ。兄さんが自分から来るなんて滅多にないし、最近出会わなかったからここまで迎えに来たんだよ」
会いたかった
紅と金のオッドアイが細められ、ふわりと抱きしめられる。甘ったるい匂いが鼻先を掠めた。…気がした。
――――――――――――――
「う…、?」
目が覚めたとき、暗闇の中に浮かんでいるような錯覚を覚えた。
しかしそれが柔らかいベッドの上だと認識した瞬間、身体が強張る。
「ッ痛…、」
軽い頭痛、眩暈、そして拘束された手首――
真っ先に思い浮かんだ男の名を呼んだ。
「ヴィンス!居るのか!?」
シャキン、という人形の微かな断末魔の方に目をやると、相変わらず笑顔のヴィンセントが高そうな椅子に腰掛け、彼もこちらに目を向け変わり果てたぬいぐるみをポトリと落とした。
「やっと起きてくれた…待ちくたびれちゃったよ。」
「何の真似だ!!」
「…何がかな?」
クスクスと笑いながらベッドに近付くヴィンセントを、威嚇する猫のように睨み付ける。
「何の真似だと聞いている!」
「ギルが寝ちゃったからベッドに運んであげたんだよ」
「…冗談はよせヴィンス。何故オレは倒れた?オレは何故拘束されている?」
そんな噛み付く猫をあやすように、ヴィンセントはギルバートの黒髪に指を絡ませた。
「ギルの為、だよ」
「…どういうことだ」
「言った通り。分からないかな?」
クスクス
尚も余裕の顔で笑うヴィンセントは、水差しを手に取り一口、口に含み
「ッ!!!?」
そのままギルバートの咥内へ水と、いつの間に仕込んだのか一錠のクスリを一緒に流し込んだ。
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