ps.今クラウチが任務に出たよ。
ラブドッグ通り155丁目2-57







「何がラブドッグだ。ふざけた名前付けやがって」


ぐるぐるに巻いたマフラーが風で揺れる。
住宅が立ち並ぶ真っ暗な道を歩きながら彼はそう呟いた。

暗闇に浮かび上がる黒い影は月明かりに反射し、明るい髪色だけが遠くからでも見えた。


今日ここに来た理由はパーティー出席のためだ。
情報収集も兼ねてご主人様から承った。

バーティは冷える手先をポケットに突っ込みながら、しばらく歩いていると賑やかな音楽と共に一軒だけ飛び抜けて大きい豪邸が目に写った。


(ここだ)


首からマフラーを取り外すと、玄関先で立ち止まり、数回戸をノックした。



大きな玄関扉が音を立てて開く。
中の暖かい空気が流れ込み固まっていた表情が和らいだ。
そして、部屋の明かりによって浮かび上がらせた男の髪色は金色だった。

おそらくこの家の主人とも言える男はパッと表情を明るくさせると、握手を求めてきた。


「これはこれは、タイラーさん!お待ちしておりました。どうぞおあがりになって」


彼、バーティ基タイラーを玄関へと上げると、主人は直ぐに扉を閉めた。


「ささ、中まで…お寒かったでしょう。アルコールなどは如何かな?」

「ええ、頂きます」


すれ違う魔法省役人にお辞儀をしながら回りを伺う、主人がバーテンを呼び寄せると、片手に綺麗な色のシャンパンを持たせてくれた。


「タイラーさんも随分出世なられて、…これは細やかですが祝杯を…」


カチンとグラスを小さく鳴らすと主人は囁くように顔を寄せる、チラチラと周りを伺う彼はいまさっき着いたであろうお偉いさんを見つけると、手を挙げていってしまった。


バーティは口へとシャンパンを傾けると、あの人が見えた。
ポリジュース薬を使わずに潜入できる人なんて相変わらず服従の呪文が大好きらしい。



「ヤックスリーさん。今日の髪型はいつもよりも奇抜ですね」

「遅いぞクラウチ、若造が。ナマエはどうした…」


そう言って近づいてきたヤックスリーに小声で話し込む。


「あいつは留守番ですよ。レストレンジさんと一緒に待機です」


「…じゃあ今日の任務はスムーズに行くな」


まさにあいつが此処に居たら、ここでアウトだ。
ヤックスリーさんの悪態に騒いで反論する。

そう考えてる間に、ヤックスリーはターゲットを見つけたらしい。ボーッと突っ立ってるバーティに声を掛けると後に付いてこいと言った。


人混みを押し退けて進んでいく。

婦人の気品が溢れる笑い声が聞こえ、数多くの社交辞令が飛び交う。



そんな時、誰かが隣を通りすぎた。



その人は
懐かしい匂いがした。



バーティが振り返る、黒い髪が目に止まった。


同じだった。
顔を見なくても分かる、匂いも背の高さも髪型も、彼がそこに居た。


立ち止まったバーティにヤックスリーが振り返る。


自分はすでに反対方向に足を向けていた。
彼を追うために。



「どうした…タイラー、クラウチ!」






初めは歩いていた。
人混みを掻き分けながら彼の歩いていく道を辿っていた。

でも追い付かない。

徐々に速度を上げていく、人の体が肩にぶつかる。


(おい)


『届いてるわけ無いだろうが、そんな手紙』

『あーあ、意地の悪い。だから彼女が出来ないんだわバーティは』





『出したのか、今日も』

『ええ、出しましたとも゛今日も゛』


(今日も)


『今日の任務ってどこだっけ?』

『何でそんなこと聞くんだ…』

『ひみつ―』



「…―クタス」


届かない。
手を伸ばしても、お前はいつも先を行く。


回りの人達が何事かと振り返り騒ぎだす。
ヤックスリーは人混みに紛れると姿を消した。


何しにここに来たんだよ。
俺を笑いにでも来たか

ああ、今日は完璧に失敗だよ。お前のせいだ。


(早く帰ってこい早く帰ってこい早く帰ってこい早く帰ってこい)


いつもあいつが書いてる言葉。
何回書かせんだよ。



「アークタス…ッ!早く、帰ってこい」


(帰るよ、必ず)


最後にそう言ってあいつは消えた。




真横で誰かが姿現しをした。腕を捕まれて、自分も姿現しをした。




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