飛松様よりお届けもの






月は低く、姿を表そうとしない。
ただずっとその光で 頭上に流れるうすっぺらい雲を照らすだけだった。
空気はつめたい。けれど温かい。
ふわふわ漂う白い欠片と、人の営みの象徴ともいえる灯り。それらすべてが目を和ませる。
皮膚にピリ、と刺すような寒さも今は慣れて 視界から流れてくる温かさは一層気持ちを明るくする気がした。

なんとなしに笑ってしまう
城の中庭でたった一人佇み、わらう自分。
背中には石のぬくもり
この下に、階下に、あるのは、
もう間違うことはない。
なにがあっても、あってはならない。


「明日、か…」


ふと口にした言葉には、期待をこめた。
明日。明日なんだ。
夢が叶う

ゆめ、が




まだガキのとき、あの手をとった
マントに隠された顔をみれば、二つの青空がみえた
一人なのか、と問えば朧気に答える少年。
そうして始まった物語
駆けるように闘って、つまずくように仲間を失った。
今思えば、なんともまぁ、自分はよくやったと思う。あいつは良く言えば心優しいやら正義感溢れるやらでてはくるが、俺からしちゃ、まだただのガキだ。
最後まで嘘ひとつつけやしない。目を合わせないからすぐ分かる。昔から変わらん癖だ。
セイレンにはからかわれるし、
マナミアには飯くわれて、
ユーリスには呆れられて、
ジャッカルにはまたからかわれる。
あの白騎士やらロッタやら、伯爵の機嫌を損なわせた時にゃあ流石に冷や汗かいたが。
とにかく、お前はまだまだ だよ
挙げ句 俺にはこんなことをさせるくらい





おそらく、あいつは明日剣を受け取らない

正直言ってあいつが貴族風ふかせるなんて、ただのコントだろ

自身の地位より世界をとる。
あいつはそういう奴だ。

それでこそ、本物の騎士

俺がガキん時から、そう教えた
そして嘘ひとつつけないような人間に
害になるものは全てみせないように

親になったつもりも、保護者なんてまっぴら御免だ。
だからこれは全部、俺が勝手にやっていること


「なぁ、エルザ」



今までとなんら変わらない。
俺が勝手に、やってることだよ
復讐だって、騎士になる夢だって、元はといえば俺が起因だ。
だから何も気にせず、お前は明日。
堂々と、叙任を断れ

胸をはって。堂々と。

それでこそ 俺の弟だ。


お前は合ってる
間違っている、の は…―― ―





「…は。笑わせてくれる」





ザングルグを越えた先にあるものを
さて、俺の傭兵団はどう対処するか

さいご地に両の足をつけて見下ろす者は
お前か俺か。



すべては明日から



つけるとしたら、最高に皮肉ったネーミングセンスがいい
たったひとつの傭兵団が、世界の始まりと終わりを左右する。
その中のたった一人の、終わりから始まった物語。



「…ラストストーリー、か。上等だ。」






ゆっくり空を見上げた。
月はかわらない
ただただ、黄金に輝くだけ

頬をつたったのは、一筋





「ほんとうに、…わらわせてくれるよ」



金の瞳には 少しだけ青空が滲んだ













(以下あとがき)
タイトルはお題サイト様からいただいたものです。
叙任式前夜のクォーク、のつもりでした…
ぅああ全然祝ってませんすみません…!!暗いっ!( ;∀;)
とりあえず、ラススト一周年おめでとう!
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