みやこ様へ/60000/日番谷
―――――――――――――




彼女の姿が見えないと気付いたのは昼休みが終わってから暫く経った後だった。

いつもはきちんと仕事をこなす**にしては珍しいな。そう思いつつ、しかし隊長である自分が職務を放棄して探しに出る訳にもいかず。
日番谷は黙々と書類処理を続けていた。それにただでさえサボりがもう一人居て手が回らない状態なのに。全く、副隊長・三席共々何とも言い様が無い。

心地好い風。
ひらり、と開放った窓から一片の花びらが入ってき、殺伐とした机上に淡い色をつけた。外を見やれば。


(――そうか、分かった)


**が何処へ行ったのかが。

数時間後。日番谷が抜けても大丈夫な程度に仕事を終わらせた頃には既に、太陽が西へ傾きつつあった。








流魂街・潤林安。
俺達の家があるその地区の中心から森を通った処に位置する小高い丘。森を抜けた日番谷の視界には木々の緑色が広がった。そしてその中にあるのは淡いピンク色。その場所唯一の桜の樹。春は確かな足取りで全ての上にやってくる。そう感じさせるような景色だった。


「…やっぱり此処に居やがった」


その風景の中に一粒の黒。少しだけ早足でそれに近付くと、其処には死覇装に身を包んだ**が一際大きな桜の樹の根元で丸まるように眠っていた。規則正しく上下する胸元。お前、もう少し場所を考えて眠れ、と言いたくなる位それはぐっすりだ。


「風邪引くぞ」


近付いて彼女の横に腰を降ろす。しかし、そう呆れてつつもそんな**が愛しくて。日番谷は穏やかな寝息を立てている彼女を静かに見つめる。が、そこは流石三席、と言っていいのか。人の気配にぴくりと長い睫毛が動き、**は目を醒ました。


「やっと起きたな」

「…あ、冬獅郎だ。おはよ」


**は眩しげに幾度か瞬きを繰り返しながら上半身を起した。


「何がおはよ、だ。ったく、仕事もサボっておいて」

「それは普段精勤な職務を行ってるから、今日位いいでしょ」

「よくねぇ」


そう言って**の頭を軽く小突けば、彼女はふふっと花が開くように微笑んだ。
よく見れば彼女の髪には桜の花びらが付いていた。子どもか、と小さく笑いつつも日番谷はそれを取ってやる。


「お前、昔から此処の桜好きだよな」

「うん、好き」


だって、


「冬獅郎と出会った場所だもん」


花曇りの空からは時々花びらが降って来る。言いながら**は、頭上で咲き誇っている淡い桜を見つめた。
彼女の全てが愛しい。
そんなただ見上げる仕草すら可愛いと思ってしまうなんて、彼女の瞳も心も奪ってしまう桜にすら嫉妬をしてしまうなんて。


(俺はかなりの末期なのかもしれない)


「だからって、爆睡する馬鹿が何処にいる。誰も来ないで夜になっちまったらどうすんだよ」

「え、だって冬獅郎が迎えに来てくれるんでしょ?」


心配してかけた言葉に、**はにっこりと答える。日番谷は顔が赤くなっていくような気がした。――お見通しってやつか。


「さっさと帰るぞ」


恥ずかしさ余り 立ち上がりながらそう早口に言えば、聞えるのは彼女の笑い声。


「冬獅郎―」


彼女の声に振り返れば、座りながらも差し出されている右腕。**の言わんとしている事が分かってしまった俺が手を差し出せば、嬉しそうにその手を握り返してくる。一気に引っ張り立ち上がった彼女の反動を受け止めて、日番谷は**をそのまま抱き寄せた。


「ねぇ、」

「ん?」

「今度は一緒に来ようね」


そう言って微笑む彼女の双眸には、真直ぐに俺が映る。


(まったく、**には敵わねぇな)


これが惚れた弱みと言うならば厄介だ、と日番谷は小さく笑ったのだった。








風に揺れる

  春の花びらと








(冬獅郎の手あったかいね)(**の手が冷てえだけだろ)



戻る
リゼ