過去拍手/市丸

――――――――




十五夜




空が澄む秋は、お月様が綺麗に見える。千年以上の昔から、人々は九月の中旬頃の満月を『中秋の名月』と呼び、おだんごや里芋をお供えして、『お月見』をしてきた。


「せやから来たんやけど」

「…いまいち意味が解らない」

「一緒にお月見しよ?」

「寝言は寝てから言え!一体今何時だと思ってるんだ…!」

「夜の二時過ぎたとこやね」


明日は久々の非番。
だから夜更しをしてやろうと、隊舎内の書架や雛森から書物を借りてきて。布団に入り、蝋燭の灯を頼りに其をウトウトと読んでいた。その時、戸が叩かれる音がした。一瞬 風かと思ったが、重たい躰をなんとか持って行き、そろりと襖を開ければ。にんまりと笑みを携えた狐がそこに。

暫しの沈黙があった。

…あぁ、アレか。狐は夜行性の動物だったな。それかきっと寝ぼけているんだ。うん、絶対そうだ。そう決め込み何事も無かったように開けた戸を閉めようとした。が、それを阻止する手が隙間に滑り込んできて、其は未遂に終わった。ちっ、と舌打ちをしてやればヒドいなァ、との鳴き声。


「それにボク 狐とちゃうんやけど」

「勝手に心を読むな。まったく。昔からお前は変わらないな。相変わらず言動が掴めない。否 知りたくもないがな。その前に、お前の其に意味を見出だそうとする試みさえ無意味だ」

「あ、ソレって褒め言葉だったりする?」

「普通にけなしているんだが?」


残暑がまだある時期だとしても、夜は多少冷える。しょうがなく、寝間着の上に上着を羽織り、襖を開け外に出、縁側に腰を降ろす。そして、隣りに座ってきた市丸に一応訳を尋ねてみれば…以下冒頭に戻る。


「で、さっきからその手にぶら下げてる風呂敷は何」

「あァ、コレ?お月見団子。」

「お花見団子的なノリで言うなよ。普通 団子はお供えするものだろ」

「ま、細かい事は気にせんといて」


軽く流されてムッとし、空を見上げる。深夜二時。夜ともなれば真っ暗闇を想像していたが意外や意外。市丸の言う通り、雲無き空には綺麗な満月がぽっかりと浮かんでいて。そして、草叢で合唱する鈴虫や蟋蟀が、その幻想的な雰囲気を一層とさせている。


「こんな風にお月見するも風流なもんやろ」

「…そうだな」

「ボクも一緒やし」

「其は関係ない」

「関係無くはないやろ?」


そう言った市丸は口元に悪戯な笑みを作った。不意に月が近くなった。あぁ、やっぱり此奴は解らない。唇に触れてきた温かなそれ。



月は太陽の光に反射して輝いている。太陽のように光輝いてはいないが、暗い夜道を照らしてくれる。
そんなお月様を灯を消して眺めて見るのも悪くは無い。




(燦爛と輝く宝石)

 
戻る
リゼ