過去拍手/檜佐木

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…暑い。
そりゃあ夏だから、と言ってしまえばそれまでだが。あちらこちらから蝉の喧しい雑談が聞え、頭内で無駄に響く。隊舎裏で青々とした草の上にゴロンと寝転がっている檜佐木は、樹々の隙間からステンドグラスのように降る細光にホッとした。日陰は涼しい。
他隊に書類を届けた後、此処にそのまま直行。いわゆるサボりってヤツ。このクソ暑い中、むしむしとした室内で椅子に座りながら仕事なんかやってられるか。となワケで随分前から此処。


「しゅーへ!」


ちょっと離れた処から声がかかったと思えば顔により濃い影が落ち、それと同時にふわりと花のような香りがした。彼女と確認した檜佐木は口元に笑みを浮かべる。


「どーしたんだよ」

「どうしたもこうしたも、修兵を探しに来たに決まってるでしょ」


話を聞くと、どうやら書類届けからなかなか帰って来ない俺を途中でぶっ倒れてるのやと心配した東仙隊長が彼女を寄越したらしい。


「けど、来て損した」

「何、心配してくれたワケ?」

「…さぁね」


そう返され檜佐木はククッと笑う。素直じゃないなと。彼女の汗でしっとりと濡れた首を見れば一目瞭然。本当に心配して探してくれていたのだと。そんな彼女が堪らなく愛しい。檜佐木は拗ねてる彼女の両頬に手を沿えると少し微笑みそして、額と額をおもいっきり当てた。


「っ…痛っ…たぁあ!!!」

「…それは俺のセリフだ。お前、石頭。そして今、口きいた」

「あ、ゴメン。って修兵が私にガツンってやったんでしょ!」

「ストップ、声押さえろ。サボりがバレるだろ」

「誰かー、此処にサボり魔がー」


こちらに視線を寄越しながらふざけた声でわざとらしく口の横に手を当て叫んでみている彼女に、檜佐木はふっと笑うと、そっと彼女の頬にもう一度触れた。


「ちょ、まさかもう一度?!」

「やるわけねぇだろバカ。少し、目ぇ閉じろ」

「は?…って、ん」


唇に柔らかな感触。何度か角度を変えゆっくりと優しくされるそれに彼女は抵抗を無くした。暫くすると離れる。


「さて、じゃあ戻るとすっか」

「…反則だ」

「もう少しやってほしいって?」

「ッ、ざけんなっ!」


立った檜佐木は笑いながら、座っている彼女の手を取った。


「戻るぞ」


してやったと満足そうに笑う檜佐木に彼女は少し納得いかないような顔をしながらもその手を取り歩きだす。





口付けるだけで





(これ以上は無理。俺が我慢出来なくなる)



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リゼ