街に白い天使が舞い降りた。

なんて、そんな表現をすれば綺麗なものだけど、実際降り積もった雪はずしりと重く、そして未だにそれははらはらと降り続いている。
折角の休日なのに、これじゃあ寒くて余程大事な用事が無ければ外へ出る気にもならない。そう隣に住む幼馴染みに伝えれば、だからと云っていい若者が家に籠もるのは如何なものか!と、それこそ同い年の筈なのにそんな年寄り臭い事を言われた集は、上着にマフラー、手袋と完全防備で家を出た。
こんなにも積もる事はないのに、と雪掃きの済んでない道を踏みしめながらその歩きづらさには少々うんざりする、のだけれど。


「なんで**はそんな楽しそうなの?」

「え、だって都会ってあんま雪積もんないじゃん。なんか久しぶり過ぎてテンション上がらない?」

「…寧ろ寒くて下がるよ」


あくまでローテンションな集に対し、公園に僅かだか積もった雪を掻き集める**が楽しげに笑う。素手で雪に触れていて、冷たそうだからと手袋を貸せばありがとうと感謝の言葉を言われた。彼女は重そうな雪を丸めていた。

あれから何も変わってないな、と集は小さく笑った。**はあの頃のままだ。

小学校の時だっただろうか、ある日曜日の朝、異例の大雪で深く積もったそれにダイブして生き埋めになっていたのは。慌てて彼女を探していた家族は、怒る訳でもなく、泣き騒ぐ訳でもなく、ただただ爆笑していた。早朝から心配して必死に探していた僕って、一体。その時家族がこうだと生まれる子供も脳天気になるのだと、そう確信した瞬間だった。


「くらえ、集!」

「!」 

過去にのめり込んでいた集の背中に、軽い衝撃。後ろに回り込んだ彼女の雪玉が命中したらしかった。脚を大きく開き、腰に手を当ててしてやったりといった悪戯な笑顔を浮かべる彼女が素直に可愛いと思う。惚れた欲目、と言ってしまえば簡単なんだろうけど。


「男子がか弱い女の子に背中をとられるなんて大変!」

「…か弱いって、誰の話」

「私に決まってるでしょ、失礼だな!」


手袋についた水滴を払いながら、近付く彼女の頬と鼻は冷気で赤くなっていた。まるで子供だな、呆れて何も言えずに溜息をつくと、此方を見上げる彼女がまた楽しげに笑う。


「か弱いと言うよりお転婆だと思うけど」

「酷っ、んむ」


赤くなった鼻を摘む。
間抜けなのにどうしようもなく可愛いと、きっと冷えているであろう身体に触れたい、なんて思ってしまうのは末期だろうか。ざっくり巻かれたマフラーで隠れた唇。これじゃキスもできない。しかも悪戯に鼻を摘んでしまったというミスで手を離すべきタイミングと難しい状況、空気を作ってしまった自分を集は馬鹿だと思った。


「…成長しなきゃだね、僕も、君も」

「しゅ…う、苦しいって、ば!」

「何言ってるか分かんないよ**」

「嘘で、…ッ!」


自分の唇に触れた彼女の額は、やはり冷たかった。この物足りなさを、無視することは出来ない。目を見開き、身体を些か硬直させる彼女。

( …僕が欲しいのは、これじゃない )

鼻から手を離し、邪魔なマフラーを下にずらした所で、両頬を挟み、思い切り口付けてやった。



寒空リテラシー



( 言葉を紡ぐ度に、この唇が僕を好きだと奏でてくれたらいいのに )

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リゼ