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波乱な1日が明けた翌日の朝。
骸は世話係として、着物姿で雲雀の支度を手伝っていた。
「はぁ、
やはり普段も着物なんですか…。」
「何か言ったかい?」
「いえ、別に。」
何だかんだで白蘭や正一にはOKをもらったので、骸は1週間だけ雲雀の屋敷に滞在することになった。
しかし、着物には未だ慣れない。
帯によってぎゅっと締め付けられている腰は、コルセットをしているような感覚。
これが1週間続くとなると、先が思いやられた。
「そんな、
障子を直すぐらいで、この世の終わりみたいな顔をしないでよ。」
雲雀は骸と向かい合い、骸の頬を撫でる。
自分なりの励ましだが骸は相変わらず眉間にシワを寄せたまま。
「…仕方ないね。」
「っン……ん、」
雲雀は骸の顎を引き寄せて無理やり唇を重ねた。
唇を割って舌を入れ、雲雀の思うがままに重ねる。
一方骸は受け入れもしないし抵抗もしない。
ただ顔をしかめながら、雲雀のスーツを掴んで耐えていた。
この屋敷内では雲雀が主人で骸は世話係の女中。
骸が抵抗しないのは、ちゃんと自分の身分をわきまえているという証だった。
「さすが、潔い女だ。」
雲雀は唇を離すと、自分の唇を指で拭き取る。
すると指には骸の口紅が付いていた。
「ワォ、ざまあみろって顔をしてるよ。」
「バレましたか?」
「君のその笑顔は、嫌みを含んでいるように見えたからね。」
「さすが、と言っておきましょう。」
骸はそう言って、雲雀の唇や指に付いた口紅ハンカチで拭き取る。
これから外へ出る人間に、この仕打ちは酷だったかもしれない。
少しばかり反省をしながら、綺麗に拭いていた。
すると、いきなり雲雀の手が腰に添えられて抱き寄せられた。
「…また随分と、甘えん坊な大人ですね。」
「こんな機会は滅多に無いよ。」
雲雀は自分より細くて柔らかい体を抱き締めながら、ニヤリと笑う。
そして骸の頭に顎を乗せて目を閉じた。
「……………。」
まさか、
同じ会社の幹部に手を出す日がくるなんて。
「雲雀君?」
「あ…。」
骸の声で我に返った雲雀は、ごめんと言って離れた。
別に想いを寄せているわけでもないのに、もどかしさを感じてしまう。
もう何人もの女を見ては体を重ねてきたが、誰であろうと自分の心には踏み込ませなかった。
しかし骸には心を許すどころか、思わず甘えていた。
「……ふぅ。」
これはどうしたものか。
雲雀は深呼吸をして心を落ち着かせる。
そしていつもの自分に戻ったことを確認すると、骸に背を向けて歩き出した。
「じゃぁ、行ってくるよ。」
「早く帰ってきてくださいね。」
「…………。」
「あ、えっと、そのっ
君が帰ってこないと僕も帰れないから、という意味です!!」
「わかってるって。」
そう言うと、雲雀は部屋の襖を閉めた。
廊下で待たせていた哲と合流し、仕事場へ向かおうとしたら、部屋の奥から「違いますからねー!」という叫び声が聞こえてきた。
その声に、哲は仲が良いですねと肩を揺らしながら言う。
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