雲凪番外編[これからのこと3]
やっぱり、私じゃダメ?
凪が小さな声で雲雀に尋ねると、いきなり強く抱き締められた。
あまりに突然のことだったので、取り上げたトンファーを手放してしまった。
そして畳の上に落ちる。
「……恭弥?」
「……………。」
凪が問いかけても雲雀は何も言わない。
しかしこの抱擁が返事だとするのなら、どうやら役不足では無いらしい。
そのことに凪はホッと安心し、雲雀の背中に手をまわした。
「ねぇ、」
「ん‥?」
「僕の前でネガティブな発言は禁止だよ。」
「…………。」
「あと、昔惚れてた人間のことも話さないで。」
「…………。」
「‥わかった?」
「はい。」
凪は雲雀の胸に頭を擦り寄せる。
すると雲雀は凪のかんざしを外して髪の毛に触れる。
誘われているのか何なのか、よくわからない。
しかし今は綱吉がいる。
凪は雲雀の唇に手を添えてストップをかけた。
おそらく綱吉は唖然とした顔をしているだろう、凪はそう思いながら隣を見た。
「…?」
綱吉がいない。
これは予想外の展開だった。
「ああ、草食動物かい?」
「ボスは…、」
「もうとっくに部屋を出たよ。」
雲雀が凪を抱き締めた時、綱吉は数秒固まっていたが我に返ると静かに部屋を出ていった。
綱吉の気配に気付かなかったことに驚いていていると、凪の頬に手が添えられる。
「彼には、重要なことを頼んであるからね。」
「重要?」
「女中たちの世話。」
雲雀はあらかじめ、
女中を雇う際に綱吉にあることを頼んでいた。
それは、もし婚約者が決まった時、候補から外れた者はボンゴレの本部で働かせること。
そして今。
婚約者が決まり、行き場を無くした女中をボンゴレで働かせる条件が動き始める。
「きっと、大いに活躍するはずだよ。」
なんたって、僕の屋敷で鍛えられたんだからね。
その言葉に、凪の中で安心と緊張が走った。
女中さんがいなくなった分を、これからは凪が背負わなければならないのだ。
「…………。」
掃除、洗濯、食事、
今の自分に家事が果たせるのか。
しかし、凪は心に決める。
雲雀にネガティブな発言はするなと言われたばかりなのだから、まずは実行するべき。
そうと決まれば、まずは料理の勉強をしなければ。
「あ、じゃぁ私‥そろそろ。」
「何。」
「これから洗濯しないと。」
「洗濯?」
「あと料理も勉強しなきゃ。」
凪はそう言うと、雲雀の腕をほどいて台所に向かおうとする。
しかし雲雀は凪の手を取って引き止めた。
「君に1つ言っておくよ。」
家事の中に‘夫の相手’もちゃんと入ってるから。
「‥‥‥‥‥。」
「ああ、でも。
僕好みの料理を作ってくれるなら行かせてあげる。」
「…何か、食べたいものがあるの?」
「うん。
昼は何でもいいけど、夜はとろろとかオクラを使ったものがいい。」
「とろろ?」
「そう。
あと豚肉とニンニク少し使った料理も。」
雲雀は凪から手を離し、畳に落ちているトンファーを拾う。
そして凪は、雲雀の食べたいものを聞いて疑問に思った。
アッサリなのかコッテリなのか、よくわからない。
「…わかりました。」
だがこれは夫の頼み。
断るわけにはいかない。
凪はそう思い、雲雀に一礼をして部屋を出た。
廊下を歩いている間、どんな献立がいいか考えていた。
「それより、お昼は何にしようかな。」
戻る