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―――‐‐……‥‥




「っ‥‥キツ…。」

あれから骸は、雲雀の部下である草壁に案内された部屋で、着物に着替えた。
帯締めなどは屋敷にいる女中がやってくれたが、着物に慣れていないせいで上手く呼吸ができない。

雲雀の待つ部屋までの道が、何だか長く感じられた。




「大丈夫ですか?」

「え、まぁ…それなりに。」

「恭さんの待つ部屋はもうすぐなので、あともう少し辛抱してください。」

「‥ご丁寧にありがとうございます。」

骸は草壁の優しい心遣いに感動し、
同時に、やはり上が変なら下がしっかりするものだと実感する。




「あの、草壁さん‥でしたっけ。」

「はい。」

「どうして貴方はスーツでいられるんですか?」

雲雀の直属の部下というのに、なぜ屋敷内でスーツ姿なのか。
これはこの屋敷の仕来たりに反するのではないのか。

骸は、ふと疑問に思ったことを聞いてみる。




「それは恭さんに許可を取ったからですよ。」

「許可?」

「貴方はご存知かと思いますが、恭さんが出席する商談や会議などは私が代理として顔を出しているんです。」

「あぁ、そういえばそうですね。」

「なので屋敷の出入りが多くなると着替える時間も無いので、恭さんに許可を貰ったんです。」

「‥ちなみに聞きますけど、
貴方以外でその許可がでている人間はいますか?」

「確か…社長である沢田さんも許可は出ているはずです。」

「……………。」

骸は納得できずにいた。
なぜ服装について許可制とかがあるのか。
だいたい、許可を出すぐらいなら自分が出席すればいいだろう。

本当に身勝手な人だ。
そう思っていると、草壁がある障子の前に座った。
そして障子を静かに開け、骸を通すと静かに閉めた。




「……………。」

静まり返った部屋の中、机を挟んだ向かい側に雲雀がいた。
目を閉じて座っているので、寝ているのか起きているのかわからない。




「…まったく、」

貴方という人は身勝手すぎます。

骸は最大限の嫌味をこめて呟いたが、雲雀は何の反応も示さない。
骸は呆れながら、お茶が置いてある場所に移動して座った。




「……………。」

「……………。」

息が詰まりそうな空気が骸にのし掛かる。
だが何と話しかけたらいいのかわからないので、骸は黙ったまま雲雀の顔をチラチラと見た。

白い肌。
長い睫毛。
綺麗な黒髪。
そしてスラッとしている体と顔。
さすが、美青年と言われるだけはある。




「っ…このままだと仕事が終わりませんね。」

骸は暇を持て余し、雲雀を起こそうと歩み寄った。
さすがの雲雀も骸の気配には気付いているはずだが、雲雀は微動だにしない。

骸は雲雀の隣に座り、叩き起こそうと手を伸ばす。
しかし雲雀の顔があまりにも間近だったので、思わず手を止めてしまった。




「……………。」

雲雀に憧れていた時期は、彼をこんな近くで見るなど持っての他。
今の自分でも息を飲んでしまうぐらい綺麗なのだから、昔の自分だったら赤面して逃げているに違いない。




「……君は、」

黙っていれば良い男なんですけどね。




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