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台所に行ったら割烹着を身に付けた銀時がいた。
そろそろ飯の時間かとチラリと覗いただけなのに、銀時が「げ、」という顔でこっちを睨んできたのだ。
「晋助…。」
「何してんだよ。」
「何って、飯作ってんだけど。」
「じゃあその顔は何だ。」
「晋助を驚かせてやろうと思ったのに失敗したって顔ですぅ〜。」
ぷりぷりと不機嫌になりながらも鍋をかき混ぜる。
飼い主が居間にいて、台所からにおいがしたら、だいたいの検討はつくのだが。
そう思いながらも、晋助は鍋を見る。
「味噌汁か。」
見たところ、具は入っていない。
何を入れるか迷っているのか。
それともこれから決めるのか。
「おい銀、」
「ん。」
ずいっと小皿を差し出された。
少量の味噌汁が入っており、味見をしろと言っているらしい。
毒味なら断る。
つか何でそんなに不機嫌なんだ。
そこまで隠したかったのか。
色々と言いたいことはあるが、晋助は受け取って渋々と味見をした。
(まぁ…同じ、だな)
特に変わったことはない。
具は入ってないし、いつもの出汁と味噌を使っていれば同じ味。
飼い主と同じ味噌汁である。
「どう?」
「変なところはねぇよ。」
「そう…。」
「で、具はどうすんだ。
今から入れても遅いだろ。」
「…………………………………………………晋助は、」
「あ?」
「晋助は…どんな具が好きなの。」
「俺?」
聞き返されて思わず止まってしまう。
味噌汁で好きな具。
突然聞かれると若干悩むものである。
(世間の定番は…)
豆腐と若芽、だろう。
だが我が家の味噌汁は、具が毎日変わり、具の量も多くて最早おかずのようなもの。
昨日は確か、茄子と蒟蒻と人参と大根がこれでもかというぐらい入っていた。
お馴染みの具というものが存在しないので、晋助はしばらく頭を捻って考える。
まぁぶっちゃけた話。
獣にとっちゃ、肉や魚などのたんぱく質以外はどうでもいい感じなのだが。
その中でも味噌汁で好きな具は…。
「んー…やっぱり、アレだろ。」
「アレ?」
「豆腐と若芽。
王道が味噌汁って感じになるだろ。」
そこに葱と油揚げ、最後に擂り胡麻を入れれば良し。
我が家じゃ確かそんなんだった。
何かと覚えているということは、それだけ興味がある、イコール自分が好きなのではないかと片付けた。
それに銀時は、ふーんと返す。
「何だよ。
俺が答えたのに納得してねぇって顔だな。」
「別に…。」
「ああほら、沸騰してきたからそろそろ具を入れろよアホ!」
「っ言われなくても入れますー!
だからちょっとは黙ってろよ馬鹿助!」
そう言うと、横から若芽と豆腐を取り出してきた。
若芽は水の中でゆらゆらと泳ぎ、豆腐は大きく切ってある。
銀時はそれらを器から出し、水気を切ってから鍋に入れた。
色々と順番は違うし、ずいぶんと乱暴なやり方だが、味の問題はそれほどないだろう。
と、願いたい。
晋助はハラハラとしながらも、煮えていく鍋を覗いた。
「ったく…豆腐に若芽があんなら最初から、」
「…悪かったな。」
「何が。」
「葱に油揚げ…用意してなくて。」
「……………はい?」
「っだから!!
晋助の好きな具が足りなくてごめんって言ってんの!
擂り胡麻取ってくる!!!」
そう怒鳴って、銀時は不機嫌そうにドタドタと廊下を歩いて行ってしまう。
尻尾は膨らんで耳もピンと立っている。
その背中を見送った晋助は、何で怒ってんだと疑問になりながらも、鍋の様子を見つつ火加減を調節していた。
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