弥生
誰かのタメに生まれてきたと言うのであれば、それは晋助のタメ…だったら嬉しい。
料理だって上達しないし?
掃除も上手くできないし?
二人羽織…は、そんなできなくても問題ないか。
日記を見返せば晋助と喧嘩したことばかり愚痴ってるし。
そういやお馴染みの猫たちにも愚痴ったな。
その前に飼い主に言ったら「そういう時期なんですよ」と話をぶった切られたっけ。
これまで色々な季節を一緒に過ごして、色々なものができた。
そう思い出しながら今日は特別。
飼い主に許可を得て秘蔵のものを引っ張りだしてきた。
「…………。」
「どう?どう?」
「…まぁ、悪くねーけど。」
「ねー!
貰い物を掛け合わせて作ったけど良い出来映えでしょ梅酒!」
銀時も口に頬張り食べる。
程よく熟れた梅の果肉。
そこからジュワっと酒が染み出る。
鼻から抜ける息が熱くなる。
「だが、よく許しを貰ったな。」
「そりゃ大部分は梅だから!
1つぐらいなら良いってことで晋助と味見したかったの。」
それはこの前の話。
飼い主が貰ったという梅と酒を、一緒に浸けて保管していたのだ。
酒はダメでも梅なら良いと了承を得たので晋助と味見。
そして好評価だったので良かった。
「んー…何とも言えん…。」
「なんだ、酒の味でもわかるようになったのか。」
「甘い、けど甘味じゃないこの感じが…。」
「大人の味ってことだ。」
「晋助は慣れてんの?」
「まぁ…飼い主が晩酌してた時に一舐めさせてもらうぐらい、だな。」
「あー、いけないんだ。」
「たった今お前も同罪になっただろ。」
「俺のは梅だしー!
酒じゃありませんー。」
ケラケラと笑ってみせると、何故か晋助がじっと見つめてきた。
お、これからイチャつきタイムか?と見つめ返すと、何故か手首を握られた。
「酔、」
「ってません!」
だいたい想像ができていたのですぐ返す。
酔ってるかを体温で調べようとするとか、なんて原始的な方法なんだ。
(あ、そういや)
旦那様の晩酌相手に、嫁は勤めなければならないらしい。
まぁそれも晋助のタメなら仕方ない。
俺も少しは酒を飲めるようにならなければ。
今から梅で練習しとけば慣れるかな。
「晋助が晩酌するようになったら…。」
「なったら?」
「晋助が飲んだくれにならないよう俺がしっかりやらなきゃなーって。」
「健康で長生きすんだろ?
お前なら殺しても死なねぇから心配すんなって。」
「布団から離れられないうえに夏風邪で倒れた人に言われたくありませんー。」
「夏祭りなら結局俺より楽しんでたろ。」
「あんなの1日だけだったじゃん。
俺なら連日行けたね。」
「そんな食い意地張ってると、いつまでも大和撫子になれねーぞ。」
「それなら大丈夫。
もし晋助への告白とか恋文とかがきたら晋助に届く前に燃やすから!
焼き芋で新聞紙が必要ってのがわかった!」
「近所付き合いを上手く使うな…まだ井戸端会議してんのか。」
「だから女子会っつってんじゃん!」
「はいはい。」
「それに関しては、暖かくなってきたら雄どもを差し置いて皆でお花見しようって話になってるんだ〜。
ってまたべっこう飴もらった。」
「花見ねぇ…。
あ、そういや米たちが会いたがってたぞ。
餅も大福もきなこも俺だけじゃつまんねぇらしい。」
「あー…ご無沙汰になってるからなぁ。
今度行こう。」
「お、」
「あ、蛙ー!」
銀時は立ち上がり庭に駆け寄る。
追いかけるように晋助も着いていき、はしゃぐ銀時を背中から抱き締めてきた。
(おおお…)
晋助もなかなかにやりおる…。
つか身長といい体がでかくなった?
なんか…雄というより、男っぽくなった。
「うんうん。」
「なに納得してんだよ。」
「晋助が男っぽくなってきたなぁって。」
「元から男だろ。」
「そうじゃなくって、」
なんていうか、大人っぽい?
1年間ずっと一緒にいたけど、ふと気づけば晋助が大人の男になってるような気がして。
俺が、男じゃないと嫁に行かないとか言ったから?
なんて笑ってしまう。
「あ、蛙の背中に小さい子がいる。」
「親子だな。」
ほのぼの見ていると、少しだけ妄想の世界に入った。
このまま晋助に嫁入りして、子供ができて、トントン拍子に進んだら楽しいのかなと。
そんな家庭が持てたら良いなぁ。
銀時は晋助の手に触れてみる。
まだ柔らかいけど、いずれ大人の手になったらたくましく太い指になるのか。
あ、そんなことになったら惚れるわ。
「晋助…。」
「嫁に貰う話なら取り消さねぇぞ。」
「ん。」
「いずれ俺のところに来るなら、好き勝手に生きればいい。」
「晋助も浮気なんてしないでよ。」
「何で俺が。」
「八百屋のおっちゃんとおばちゃんが言ってた。
結婚3年目が危ないんだって。」
「その言葉、そっくりそのまま返すぜ。」
銀時の顎を持ち上げ、後ろを振り向かせる。
重なった唇を軽く吸うと、甘い感覚が体に走った。
べっこう飴の味はしない。
代わりにほんのりと梅の味がする。
「大和撫子は良いが…あまり綺麗になんなよ。」
「ん、わかった。」
晋助のタメなら仕方ない。
大和撫子を勉強しながらも、なりすぎず。
しっかり面倒を見ながらも、好き勝手に生きる。
そうすれば晋助と一緒にいられるのだ。
銀時の顎から手を離し、今度は銀時の白い耳を舐めたり食んだりする。
くすぐったいと身を捩れば更にきつく抱き締めてきた。
この力強さにもキュンとくるのは、男らしい証なんだろう。
それが嬉しくて更に抵抗したフリをしながら晋助の男らしさを身をもって感じる。
(こんな俺でも、)
隣にいると言ってくれた。
求婚をしてくれた。
晋助と出会って晋助にしてきたことが、俺のこれまでの『タメ』が、無事に成就して良かったとしみじみ思う。
「あ、そう言えば梅とは別におやつがあるって言ってたよ。」
「お前はまた…色気より食い気な事を言いやがって。」
「そんな俺を嫁にするんでしょ。
なら俺にも付き合ってー!」
「わかったわかった。」
呆れながらもついてきてくれる。
その際、当たり前のように手はしっかりと握って。
そして着いた居間には赤飯が用意されていて、してやったりといった飼い主もとい松陽の笑顔に、何とも言えない状況になっていた。
弥生
(飼い主には全てお見通し)
17,03/30
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