睦月
もう幾つ寝るとお正月。
お正月には餅食って、腹を壊して救急車。
あぁ早く来い来い救急車。
…と歌っている近所の子供がいた。
何じゃそらって思いながらも真似て歌ってみたら、アホを見る目の晋助が後ろにいた。
そんな感じで明けた新年。
外は寒いからと怠けている予定だったが、神社にお参りしたり、雪が降ったから遊んだりと、何かと外に出る機会が多かった。
「うぅ…さっぶ。」
北風に身を縮めながら、ほうきを手に玄関を掃除する。
だがしかし、集めた枯れ木や葉などが風に煽られて舞ってしまう。
それを追いかけていると、木の上にいた晋助がアホを見る目で見下ろしていた。
って何回目だよ。
「何だよこんにゃろ。」
「どこまでもアホなんだなお前。」
「うるせぃっ」
「そう怒んな。
楽しそうだって褒めてんだ。」
「楽しく見えんなら少しは手伝えよ!」
「俺は拭き掃除が今終わったんだよ。
休憩させろアホ。」
そう言うと、晋助はひょいっと木から飛び降りて家の中へと入っていった。
もさもさと冬毛に覆われた黒い耳は聞く耳を持たないようだ。
こういう時は一緒に手伝ってくれたり助けてくれんのが筋だろう。
女を外に置いてくとか男としてサイテーだな。
(俺も早く終わらせないと、)
終わったら晋助に一蹴りして昼寝しよう。
シメシメと悪巧みをしながら、ほうきを片手に掃除を続ける。
その際、ご近所さんに挨拶をしながら、お婆ちゃんに飴を貰いながら、尻尾に触ってくる悪ガキ共を相手にしながら、
何かと全身運動になった。
「地域の力って大事だよね〜。」
ほうきを片付けながら、自分で言って納得する。
この家に、もっと言えばこの村で過ごしてもうすぐ1年となる。
そこそこ顔馴染みも増えて
人とのふれあいの機会も馴染んできた。
今日はいつも飴をくれるお婆ちゃんに加えて、八百屋のおばちゃんがイチゴをくれた。
晋助の分も貰ったけど証拠隠滅。
既に腹の中である。
「やっぱ旬モノは違うわぁ。」
「何ニヤニヤしながら歩いてんだ。」
「いーや、何でも。」
ただいま、おかえりの挨拶を交わして暖かい部屋に入る。
晋助が陣取っているこたつに足から入り、からの体を突っ込んで温まる。
「賑やかだったな。」
「へ?」
「掃除。
キャイキャイ誰かと話してたろ。」
「ああそれね、色んな人と喋ったり飴貰ったりした。」
「またか。」
「あのお婆ちゃんやたら飴くれるよね〜。
お馴染みのべっこう飴だけどめっちゃ好き。」
「ちゃんとお礼は言ったか。」
「ん!
ありがとうって言ったら『掃除をして偉いねぇ』って誉められた。
あのお婆ちゃん良いヒトだわ。」
「そうかい。」
ふわぁとあくびをしながらも会話を続ける。
深追いはされないのでイチゴのことは言わなかった、って言ったら言ったで尋問されるので尚更言わないのだが。
「で、イチゴは美味かったのか。」
「うん。」
「……………。」
「あ。」
やられた。
「お前はどうして完全犯罪ができねェんだか…。」
晋助は呆れながら、アホを見る目をしてきた。
いやいやいや今日で何回目だよ。
確かに今、見事に墓穴を掘ってしまったが。
ぷーっと頬を膨らませて白い尻尾を上下に揺らす。
畳にモサモサと当たるが気にしない。
嘘をついた俺も悪いのだが、策略的にハメやがった晋助も悪い。
「完全犯罪って、別にどこにも証拠は…。」
「口元。」
晋助の手がフニフニと唇に触れてくる。
そうか、晋助に会う前に水でも飲んでおけば良かった。
口の中にイチゴの香りが残っていたのか。
失敗失敗。
「じゃあ今度こそ完全犯罪してみせる!」
「やってろやってろ。」
「あ、今年の俺の抱負を軽くあしらうとか。」
「俺にとっちゃどうでも良いことだからな。
人の抱負ってそんなもんだろ。」
「じゃあ晋助を巻き込んだ抱負を言えば良いわけ?」
「じゃあって何でそうなんだ。」
「なら、」
「あーもういい、
これ以上は提案すんな。」
唇に触れていた指が、力強く押してきた。
何も言うなって事だろう。
だがしかし。
それで引き下がるような銀時ではない。
「晋助に完全犯罪をすr」
「だろうと思ったよ。」
晋助の手が今度は頬を押したり潰したりしてくる。
むにゅむにゅと気持ちいいが、いい加減に鬱陶しい。
銀時は反撃と言わんばかりに、晋助の頬を掌で押した。
お互いに酷い顔になっている。
これはどこかで…。
「しんしゅけの顔…。」
「あ?」
「福笑いのアレみたい。」
「そういうお前も、な!」
「ッで!!
鼻は卑怯だかんな!」
「二人羽織の時にお前がやったんだろうが。」
「あれは事故だこんちくしょー!」
「はははっひっでぇ顔。」
「女の鼻を押すなぁああっっ」
睦月
(いつも通りで今年を始める)
17,01/31
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