霜月
別に寝たいわけじゃない。
布団が俺を離さないんだ。
(なんて、な)
晋助は日光から逃げるように布団に潜り込む。
頭はぼんやりとしながらも起きている。
が、残念なことに体が動かない。
「……………。」
具合が悪いわけではない。
本音を言えば、布団から出たくないのだ。
もう少し寝ていたいが、こちらに走ってくる足音が聞こえたので、それは叶わないらしい。
障子が開く音。
ひんやり伝わる外の冷気。
寒いなと思っていると、いつもの声が聞こえた。
「しーんっすけー!」
「……………。」
耳元で聞こえるメガホン級の声。
耳はピクリと反応しながらも、やはり起きる気にはなれない。
「朝だよ朝!」
「……………。」
「朝ぁー!!」
「……………。」
「朝ご飯冷めるよー!」
「……………。」
「冷 め る よ !!」
「……………。」
「……………。」
「……………。」
「……………。」
「……………。」
「………………………………。」
「……………。」
「……………………………………………………。」
「……………はぁ…。」
大声で叩き起こされるよりも、側でじっと見つめられてる方が怖い。
微動だにしない気配を感じると、逆に目が覚めてしまう。
晋助は布団を捲り、重いまぶたをゆっくりと開けた。
「…なんだ。」
「朝。」
「……………。」
確かに朝だ。
朝なのだが、どうも起きるのが怠い。
もう少し寝かせてほしい。
こんな寒い日は誰だってそうだろ。
そう思って目をつむると、何か極寒の塊が首筋に触れた。
「〜〜〜ッッ!!!!」
「起きた?」
寒さとくすぐったさと。
銀時の冷たい手が首筋に当てられて、晋助は驚いて目が覚めてしまった。
直前に水仕事をしていたのかというぐらい冷たい。
熱を出した時は良かったが、今の時期は一番やられたくない。
驚きすぎて尻尾が膨らんでしまった。
「ぁあああもう離せ離せっ」
「起きんの?」
「朝から…お前はなんで元気なんだ。」
「晋助が起きないとつまんないから〜。」
「1人で遊んで来…ッつめて!」
「起きるまでずっとこうですー!
起きろー!!!」
今度は手の甲。
ぺたりぺたりと手を重ねてくるので、どうしても起こしたいらしい。
ならば仕方ない。
今は素直に起きて、また寝ればいい。
(あー…ねみぃ)
フラフラとしながらも、晋助は起き上がって銀時の頭を撫でる。
嬉しそうな銀時はぎゅっと抱きついてきて、おはようと言って唇を舐めてきた。
そして朝食後。
うとうとしながらも朝食を終えたら、少し食休みがてら本を読む。
その横に銀時が座り、同じく本を読んでいた。
(天変地異の前触れか…?)
銀時が本を読むなど。
あの、突っ走り女、もとい雌である銀時が、真面目に読書、など。
しかも文面や表紙を見れば、わりかし真面目な内容。
何が起きたんだと聞きたいが、引っ付かれて後々寝れなくなるのは面倒。
晋助も黙々と文字を追うが、頭に入ってこなかった。
そして良い頃合いになったところで、また寝ようと立ち上がる。
寝る場所は…そうだな、日当たりが程よくて冷気の入ってこない、昼は暖かい部屋があるからそこを確保しよう。
そう考えてると、銀時もついてきた。
「…………。」
「…………。」
特に話すことはなく。
晋助は日当たりのいい場所まで毛布を持っていく。
それを銀時はじっと見つめてくる。
これで遊びをせがまれたら厄介だなと思っていると、布団を被って寝転がった。
毛布の隙間からひょっこり銀色の耳が出ている。
「おい…。」
「ん?」
「つまんないんじゃねぇのか。」
「いーや?
今は晋助も起きてるし。」
「今はな。」
「なら一緒に寝ればつまんなくないし。」
「そりゃそうだが、」
「俺が起きる頃には晋助も起きて、つまんなくないじゃん?」
「……………。」
「じゃ、寝よ寝よ。」
そう言うと銀時はうつ伏せのまま大きなあくびをした。
俺よりハキハキと起きてきたくせにもう寝れるのか、とツッコミを入れる暇なくすぐ寝てしまったようだ。
「ったく、合理的なのは誰の影響だか。」
膨らんだ尻尾も元に戻っている。
それを確認した晋助は、布団の隙間に入って銀時を抱き寄せた。
それにはピクリと銀色の耳が反応したが、すぐに耳が垂れて本格的に寝る体制になる。
「…そのまま寝ると、畳の痕が付くぞ。」
「んー…。」
頬を畳に擦り寄せたまま、うつ伏せに眠る銀時。
仮にも女ならそんな無防備に寝るんじゃねぇと思いながらも、銀時を抱き寄せて自分の胸に閉じ込めた。
顔の下には自分の着物の裾を敷く。
横向きに寝るのは慣れていないが、これなら銀時の顔が見れるから良い。
素直に胸にすり寄ってくる銀時の頭を撫でながら、晋助も起きて目を閉じた。
(ったく、)
お互い、誰に似たんだか。
霜月
(一緒にいるやつに影響される今日この頃)
16,11/29
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