1/3














横切る人。
いつも通りの風景。
夏も終わり、涼しい風が通り抜ける。

だが景色が違って見えるのは、どうしてだろうな。












(ナカマトナラ イケルサ)















「はぁーったく。」

銀時はボリボリと頭を掻いて街を歩く。
いつも通りの道を歩くがその足取りは軽く、浮かれていた。

それもそのはず。
祭の日にこれでもかというぐらい指の先まで愛され、どろどろに溶かされてしまったのだから。
あの時は本当に性欲が尽きず、結局朝まで抱かれていた。
そのおかげもあって高杉と長く一緒にいられたうえに約束まで取り付けたのだから文句はない。
策略家の策略より俺の挑発が勝ったのだと銀時は自己満足をしていた。




「あ。」

そう思っていると、目の前にどこかで見たような背中が。
ちょっと驚かしてやろうか。




「よッッッッ!!!
腐れポリ公元気かい?!」

「ッッッッ!!!!!!!」

目の前の人物は肩を大きく揺らして般若の形相で銀時を睨んだ。
まぁこういう反応になるとはわかっていたので銀時もヘラっと笑って般若顔をスルーする。

一方の男は出店で和菓子を選んでいたらしい。
それに気付いた銀時は横から追加であれもこれもと注文した。
しかし男は怒らず黙って会計をする。




「あれ、どーしたの土方君。」

「何がだ。」

「いつもなら『ふざけんじゃねぇ』『お前をマヨネーズの餌にしてやろうか』って感じじゃん。」

「マヨネーズの餌って意味わかんねぇだろ。
ほらよ。」

「お、あざっす。」

それぞれ別の袋に包装された和菓子を持って、さてどうしようかと迷う。
するとこの前鉢合わせた茶屋が見つかったので、土方を誘って店に入った。
それも面白いぐらいすんなり話が進んだので驚く。




(よっぽど機嫌が良いんだな)

土方は隊服を着ている。
茶屋に誘っただけで公務執行妨害と反論されるかと思いきや。
また悩みでもあんのかと顔を見ても曇り顔ではない。

ってことは前回の悩みは払拭されて、今はすこぶるテンションが高い。
そして財布の紐も緩い。
これは甘味にありつくチャンス。
銀時は注文をしようと店員を呼んだが、結局頼んだのは甘味ではなく茶2つだった。




「どうしたんだ。」

「え、何が?」

「ここにきててめぇが甘味を頼まねぇなんざ…天変地異でも起きんのか。」

「失礼な。
まずは茶の渋みを嗜みながら後でスイーツの甘さを楽しむんだよ。」

わかってないなぁ土方君と言いながら、銀時も自分自身に驚いていた。
甘味を食べたいと思って茶屋に入ったのに、何故かそんな気になれない。
それもこれも、あの日の林檎飴が原因か。




(ダメだなぁ、俺)

あの時の高杉の時間を思い出して嬉しいだなんて。
やっべー今すっげぇニヤニヤしてるわ。




「万事屋?」

「それはそうと。
土方君はこの前の話は解決した?」

銀時は話題を変えようと土方に話を振る。
すると土方はピクリと反応し、小さな声でまぁなと呟いた。

いつだったか。
祭が終わって土方の悩みの種と遭遇した時も同じ反応だった。
何か良いことでもあったのかと聞くと、まぁそうですねィと嬉しそうに言う。
自分の助言が役に立ったようで何よりと感じていた。




「まぁ、アレだ。
やんちゃな部下に関してはてめぇの言った通り死ぬほど構って遊ばせてやった。
それが良い方向に出たのは感謝してる。」

それはあの時、銀時に貰った助言。
そういう年頃のやんちゃ坊主は全世界共通で死ぬほど遊ばせてやればいい。
距離を置くのは逆効果。
構ってくれと言われる前に構ってやれ。
そうすれば勝手に満足して好感度も上がる、一石二鳥だと。




「だろ?
だてに普段からやんちゃな子供と一緒に商売してねーから。」

「それもそうだな。」

「また何かあったら話ぐらい聞きまっせ。」

「あぁ。
その時はまたげっそり顔でこの茶屋ん中にいるさ。」

「可愛い部下を持って幸せだねぇ土方君は。」

「まぁな。」

土方は出された茶を飲んで一服する。
最初こそいつも突っかかってくる万事屋に頼るのは無謀だと思っていた。
助言も助言だし、挙げ句の果てには祭に行って探してこいという命令で終わった。
が、あの時は既に藁をもすがる思いだったので仕方ないと片づける。




(可愛い部下…か)

あれ以来、総悟は一段と可愛くなった気がする。
祭の後の夜を共にし、朝を向かえても気がつけばギュウギュウと抱きついてくる。
屯所でも構わず甘えのスイッチが入るのが玉に瑕だが、たっぷり可愛がればその分おとなしくなるので、俺もそれを楽しんでいた。

そして今日も、見回りに出る前に沖田のスイッチが入ってしまったのでひたすら可愛がってきたばかりだ。
シフトそっちのけで見回りに一緒に行くと聞かない唇を貪って、腰を抜かすまで続けた。




「そんで何?
その菓子は可愛い部下への土産?」

「そんなところだ。」

「だったら早く帰らねーと。
今頃土方君を探しに小屋から出てきてんじゃない?」

「まさか。
俺は待てができるよう躾たはずだ。」

土方はフッと笑って茶を飲み干す。
そして刀を持つと金を置いて茶屋を出て行った。
その横顔はどこか楽しそうで、今日も平和だと銀時も安心して茶を飲んだ。
土方は知らないだろうが、通り過ぎた狗ならぬ猫は只ならぬ殺気でこちらを睨んでいたのだから尚更愉快だ。




(俺に嫉妬するのはお門違いなんだがなぁ)








[*前へ] [#次へ]

戻る
リゼ